CO2回収装置は「現地で建てる」から「工場でつくる」へ|三菱重工の新モデルが示す転換
「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長の日野広大です。CCUS(二酸化炭素回収・利用・貯留)は「大企業と国家プロジェクトの話」と思われがちですが、設備の作り方が変わり始めています。結論から言えば、今回の三菱重工の新モデルが示したのは、CO2回収装置が「一品一様の現地建設」から「標準設計+工場製モジュール」の製品へ移りつつあるという構造変化です。
二酸化炭素回収装置(CO2回収設備)とは
CO2回収装置とは、工場や発電所などの排ガスから二酸化炭素を分離・回収し、利用や貯留に回せる状態にする設備のことです。化学吸収法では、アミン系の吸収液に排ガスを接触させてCO2を吸収させ、加熱して放出・分離する仕組みが広く使われています(資源エネルギー庁のCCUS解説)。回収そのものにエネルギーを使うため、吸収液の性能と装置の運転効率が導入コストを大きく左右します。カーボンニュートラルの達成手段のうち、燃料転換や省エネで削ぎ落としきれない排出を扱う残余排出への対応手段の一つです。
ニュース紹介(2026年8月29日公開): 【日本】三菱重工、二酸化炭素回収装置の新モデル投入。年間45万トン回収、納期最大12カ月短縮(Sustainable Japan・2026年8月29日)
2026年9月4日時点の最新情報
三菱重工は2026年9月9〜11日の「CCUS EXPO」(幕張メッセ)に出展し、9月10日には基調講演も予定されています(出典: 三菱重工の公式発表、CCUS EXPO公式案内)。発表は8月26日付で、年45万トンクラス、モジュール比率90%以上、納期6〜12カ月短縮の説明は未変更です。
SDGsニュースの要約
三菱重工業は2026年8月26日、中小型CO2回収装置「CO2MPACT」シリーズに大型の新モデルを投入したと発表しました。従来の年間最大7万トンから、年間45万トンクラスまで拡大し、モジュール比率90%以上により納期を6〜12カ月程度短縮するとしています。9月のCCUS EXPOで示される新ラインアップにも注目できます(出典: Sustainable Japan 2026年8月29日、三菱重工の発表)。
SDGsニュースのポイント
- 回収能力を年間最大7万トンから年間45万トンクラスへ拡大
- モジュール比率を装置全体の90%以上に引き上げ
- 現地作業の効率化により納期を6〜12カ月程度短縮
- モジュールはトレーラーによる公道輸送や鉄道輸送が可能なサイズ
- 幅広いCO2濃度の排ガス源に対応する設計
- 標準設計の採用で工期・コスト・機器配置の事前検討期間を短縮
- 発電・化学プラントに加え、バイオマス、LNG液化、製鉄・セメント、ごみ焼却でも活用を想定
- 同社は2026年8月時点で、同技術を用いたプラントを18基納入(三菱重工の発表)
SDGsニュースを考察
注目したいのは、性能向上ではなく「作り方」の変更がニュースの中心にある点です。回収量の拡大は分かりやすい進歩ですが、実務的なインパクトが大きいのはモジュール比率90%以上という数字と、そこから生まれる6〜12カ月の納期短縮です(出典: Sustainable Japan 2026年8月29日)。プラント建設では現地工事の比率が高いほど、天候・人手・地域制約の影響を受けて工期とコストが読みにくくなります。工場で作って運ぶ設計へ寄せることは、脱炭素投資の意思決定に不可欠な「見積もりの確からしさ」を上げる取り組みだと読めます。
第二に、適用先が発電所の外へ広がっていることの意味です。製鉄、セメント、ごみ焼却といった分野は、燃料を変えるだけでは排出をゼロにしにくいプロセス由来の排出を抱えています。こうした領域はゼロエミッションの実現が構造的に難しく、省エネルギーや再エネ調達の努力だけでは残余排出が残ります。標準化された中小型装置は、排ガス条件や経済性を満たす場合に、大規模プロジェクトを組めない事業者にとっても検討対象になり得ます。導入可否は、輸送、貯留・利用先、規制、費用も含めて判断する必要があります。
第三は、サプライチェーンを通じた波及です。導入企業の素材・部材の排出原単位が下がれば、取引先のスコープ3にも影響し得ます。サプライヤーから排出係数・活動量・算定境界を受け取り、GHG ProtocolのScope 3 Calculation Guidanceに沿って反映する準備が重要です。一方、回収にもエネルギーを要するため、削減できる排出を先に減らし、残余排出にCCUSを検討する順序が必要です。
私たちにできること
第一に:自社の排出を「減らせる分」と「残る分」に仕分ける 電化・燃料転換・省エネで削れる排出と、プロセス由来で残る排出を分けて把握します。この仕分けができて初めて、CCUSが自社に関係する技術かどうかを判断できます。SDGs経営の実務は、この解像度づくりから始まります。
第二に:取引先の脱炭素投資を自社の算定に反映する準備をする 素材・エネルギーの供給元が回収設備を導入した場合、排出原単位の更新情報を受け取れる関係を作っておきます。トレーサビリティの考え方が、そのまま排出データの管理に使えます。
第三に:設備投資の判断軸に「納期」を入れる 脱炭素投資は補助制度や電力契約の更新時期に左右されます。性能とコストだけでなく、いつ稼働できるかを比較軸に加えると、実行可能な計画になります。
締め
技術ニュースは性能の数字に目が向きがちですが、社会実装を左右するのは「どれだけ早く、確実に建てられるか」です。今回の発表は、CO2回収が実験室と国家プロジェクトの間から、設備調達の選択肢へ移りつつあることを示しました。「知恵袋」編集部としては、自社の排出を減らせる分と残る分に仕分けるところから始めることをおすすめします。回収技術を適切に使うには、減らせる排出を先に減らす判断が重要です。(出典)






