「太陽光発電は、環境のためというのは真っ赤な嘘。実は、一部の人間が儲けるための巨大な利権であり、世界を操るための陰謀なんだ！」
SNSを開けば、このような過激な言葉が目に飛び込んでくる時代です。僕の友人からも、「この記事、どう思う？」と不安げに尋ねられることが増えました。
複雑な社会問題が、善と悪、味方と敵という単純な物語に落とし込まれると、それはとても魅力的で、分かりやすく見えてしまいます。しかし、その「分かりやすさ」の裏には、私たちを分断し、本当に解決すべき問題から目を逸らさせる巧妙な罠が隠されているのかもしれません。
今回は、「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長として、この「太陽光発電陰謀論」を題材に、なぜ人は陰謀論に惹かれてしまうのか、そして、その罠から抜け出すための「SDGs思考」について、皆さんと深く考えていきたいと思います。
こんな人におすすめです
- SNSの情報に何が本当か分からなくなっている方
- 「太陽光発電は怪しい」という話を聞いて、真実を知りたい方
- 陰謀論に陥らず、建設的に社会問題と向き合いたい方
- 企業のIR・広報担当者で、フェイクニュースへの対応に悩んでいる方
なぜ私たちは「陰謀論」に惹かれるのか？
まず考えたいのは、なぜ陰謀論がこれほどまでに広がるのか、その背景です。誰かを責める前に、私たちの心の内側を見てみましょう。
- 将来への不安と不信感：経済の停滞、頻発する災害、政治への不信…。先が見えない不安な状況では、「すべてを裏で操る悪い奴らがいる」という物語が、安心材料になってしまうことがあります。
- 単純明快さへの渇望：気候変動のような複雑な問題は、理解するのに時間がかかります。それよりも「敵」を一人設定する方が、ずっと簡単でスッキリするのです。
- 「自分だけが真実を知っている」という万能感：多くの人が知らない「真実」を知っていると感じることは、一種の優越感を与えてくれます。SNSは、この感覚を増幅させる「エコーチェンバー」を生み出しやすい構造になっています。
こうした感情は、決して特別なものではありません。不安な時に分かりやすい答えを求めてしまうのは、人間の自然な心の働きとも言えます。だからこそ、私たちは冷静に事実と向き合う「思考のコンパス」を持つ必要があるのです。
ファクトチェック：太陽光発電は温暖化を「抑制する」
では、改めて「太陽光発電が温暖化を進める」という言説の核心部分を、データに基づいて見ていきましょう。
事実１：「局所的な気温上昇」と「地球温暖化」は全くの別物
陰謀論でよく指摘されるのが「パネルが熱を持って気温を上げる」という点です。これは部分的には事実ですが、地球全体の温暖化とはスケールが全く異なります。専門家が指摘するように、これは夏場のアスファルトが熱くなるのと同じ局所的な現象であり、温室効果ガスによる地球規模の気候変動とは、科学的に明確に区別されています。
事実２：「ライフサイクルCO2」で見れば、火力発電より圧倒的にクリーン
「パネル製造でCO2が出る」という主張も、一面的な見方です。あらゆる製品は製造から廃棄までにCO2を排出します。重要なのはその総量です。信頼できる研究機関のデータでは、太陽光発電のライフサイクルCO2排出量は、石炭火力発電の10分の1以下です。これは、私たちが目指すカーボンニュートラル社会にとって、疑いようのない事実です。
SDGs思考で見る「光」と「影」〜陰謀論が生まれる土壌〜
ここで重要なのが、陰謀論が指摘する「影」の部分からも、目を逸らさないことです。SDGsの視点は、物事を多角的に捉え、単純な善悪二元論から抜け出す手助けをしてくれます。
【光】気候危機を乗り越える希望のエネルギー (SDGs7, 13)
太陽光発電は、化石燃料への依存から脱却し、気候変動という人類共通の危機を乗り越えるための、強力なツールです。これは、SDGs7（クリーンエネルギー）やSDGs13（気候変動対策）の達成に不可欠な「光」の部分です。
【影】利権や環境破壊への懸念 (SDGs15, 16)
一方で、陰謀論が生まれる土壌となっている「影」の部分も確かに存在します。
- ずさんな開発による環境破壊：森林を無計画に伐採して設置すれば、SDGs15（陸の豊かさ）が損なわれます。
- 不透明な合意形成：地域住民への説明が不十分なまま計画が進めば、不信感が生まれ、「利権」や「陰謀」といった言葉が囁かれるようになります。これは、SDGs16（平和と公正）でうたわれる、透明性のある意思決定の欠如です。
重要なのは、この「影」の部分を理由に太陽光発電全体を「悪」と断じるのではなく、「どうすれば影を小さくし、光を最大化できるか？」という建設的な問いを立てることです。
私たちの選択：分断か、対話か
陰謀論は、社会を「信じる者」と「信じない者」に分断します。しかし、SDGsが目指すのは、SDGs17（パートナーシップ）の精神に基づいた、対話と協調です。
私たちにできる、陰謀論の罠から抜け出す3つのステップ
- 感情と事実を切り分ける：「この情報に、自分はどんな感情を抱いたか？（不安、怒りなど）」と自問し、感情の動きに気づきましょう。その上で、「事実はどうなのか？」と、信頼できる情報源（公的機関、研究機関、複数の報道機関など）にあたる習慣をつけましょう。
- 「敵探し」から「課題探し」へ：「誰が悪いんだ？」という犯人探しを始めると、思考は停止します。「私たちの社会が直面している本当の課題は何か？」と問い直すことで、より本質的な議論が始まります。
- 対話を諦めない：身近な人が陰謀論を信じてしまった時、頭ごなしに否定するのは逆効果です。まずは「なぜそう思うの？」と、相手が抱える不安や不信感に耳を傾けることから始めましょう。必要なのは論破ではなく、ステークホルダー・エンゲージメント、つまり、粘り強い対話です。
まとめ：不確かな時代を生き抜く「SDGs思考」という羅針盤
「太陽光発電陰謀論」は、氷山の一角に過ぎません。これからも、私たちの不安を煽るような、もっともらしい言説は次々と現れるでしょう。
そんな不確かな時代を生き抜くために、私たちには信頼できる羅針盤が必要です。それが、物事を多角的・批判的に捉え、分断ではなく対話を選び、持続可能な未来という共通の目標を見据える「SDGs思考」なのです。
白か黒か、善か悪か。そんな単純な物語に飛びつく前に、一度立ち止まってみませんか。複雑な現実をそのまま受け入れ、その中で最善の道を探していく。その知的な営みこそが、陰謀論の罠を打ち破り、より良い未来を築くための、確かな一歩となると、僕は信じています。
コメント