脱炭素とSDGsの知恵袋の編集長、日野広大です。私たちは、政府のSDGs推進本部から表彰された知見を活かし、持続可能な未来のための情報を発信しています。今回は、世界的な人気を誇るファッションブランドの裏側に、サステナビリティの視点から光を当てます。
キム・カーダシアンが手掛ける補正下着ブランド「SKIMS」。多様な体型や人種を肯定する「ボディ・ポジティブ」なメッセージで世界中のファンを魅了し、今や数十億ドル規模の評価を受ける巨大ブランドです。しかし、その華やかな成功の裏で、地球環境や働く人々への配慮は十分になされているのでしょうか?独立した倫理評価機関「Good On You」が、SKIMSに厳しい評価を下しました。
- ニュースの核心: 人気ブランド「SKIMS」が、環境・労働倫理の観点から「不十分」と評価
- 評価のポイント: 透明性の欠如、環境負荷の高い素材、労働者の権利
- ファッションとSDGs: 私たちの選択が持つ意味と、企業に求められる責任
- 賢い消費者になるために: 「グリーンウォッシュ」を見抜き、真にエシカルなブランドを選ぶ方法
ニュースの概要と背景
独立評価機関が下した「不十分」の評価
オーストラリアを拠点とする、ファッションブランドのサステナビリティを評価する独立機関「Good On You」は、キム・カーダシアンのブランド「SKIMS」に対して、5段階評価で下から2番目にあたる「Not Good Enough(不十分)」という総合評価を与えました。
評価は「地球(Planet)」「人々(People)」「動物(Animals)」の3つの観点で行われ、特に「地球」と「人々」の項目で最低評価の「Very Poor(非常に悪い)」とされています。その最大の理由は、サプライチェーンにおける透明性の欠如です。
専門的観点からの分析と意義
なぜSKIMSは厳しい評価を受けたのか?
「Good On You」が指摘する問題点は、現代のファッション業界が抱える構造的な課題を浮き彫りにしています。
見えないサプライチェーンと環境負荷
SKIMSは、製品の大部分にナイロンやスパンデックスといった、化石燃料を原料とする環境負荷の高い合成繊維を使用しています。リサイクル素材の使用も一部に留まっており、製品が最終的にどのように廃棄され、環境に影響を与えるかについての情報もほとんど公開されていません。
さらに、温室効果ガスの排出量削減に向けた具体的な目標を設定している証拠もなく、環境に対する配慮が極めて不十分であると判断されました。
働く人々の権利は守られているか?
ファッション業界のサプライチェーンは非常に複雑で、多くの工場が労働コストの低い開発途上国に位置しています。SKIMSは、自社のサプライチェーンのどこで、どのような労働環境で製品が作られているのかをほとんど公開していません。そのため、そこで働く人々が、生活を維持できるだけの正当な賃金(生活賃金)を受け取っているかを、外部から検証することが不可能なのです。
この「透明性の欠如」こそが、人権デューデリジェンスの観点から最も問題視されている点です。
実践的な意味と取り組み
このニュースは、きらびやかなマーケティングの裏側を見ることの重要性を教えてくれます。
企業に求められる「透明性」と「アカウンタビリティ」
SKIMSが掲げる「多様性の尊重」というメッセージは、それ自体は非常に価値のあるものです。しかし、そのメッセージが、サプライチェーンにおける環境負荷や人権侵害といった不都合な真実を覆い隠すための「グリーンウォッシュ」や「ウォークウォッシュ(人権配慮をしているように見せかけること)」であってはなりません。
真にサステナブルなブランドであるためには、マーケティングメッセージと、実際の企業活動が一貫していることが不可欠です。そのためには、サプライチェーンの情報を積極的に公開し、ステークホルダーに対して説明責任(アカウンタビリティ)を果たす姿勢が強く求められます。
私たちが「賢い消費者」になるために
私たち消費者も、ブランドのイメージや宣伝文句だけで判断するのではなく、その裏側にある事実を見ようとすることが大切です。
- 信頼できる情報を参照する: 「Good On You」のような独立した評価機関の情報を参考にしたり、ブランドのウェブサイトでサステナビリティに関する具体的な報告書が公開されているかを確認したりする。
- 素材を意識する: 製品のタグを見て、どのような素材が使われているかを確認する。オーガニックコットンやリサイクルポリエステルなど、環境負荷の低い素材を選んでみる。
- 長く使えるものを選ぶ: トレンドを追いかけて安価な服を次々と買うのではなく、品質が良く、長く愛用できる一着を選ぶ。これは、SDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」に貢献する、最もシンプルでパワフルなアクションです。
展望と今後の課題
SKIMSの事例は、ブランドの知名度や人気と、その倫理性が必ずしも一致しないことを示す象徴的なケースです。消費者のサステナビリティへの関心が世界的に高まる中、SKIMSのような巨大ブランドが今後、この厳しい評価にどう向き合い、企業活動を改善していくのかが注目されます。
ファッション業界全体が、より透明で、公正で、地球環境に配慮したビジネスモデルへと転換していくためには、私たち消費者が声を上げ、賢い選択を続けていくことが不可欠です。私たちの「買う」という行為は、未来の社会のあり方を決める「投票」そのものなのです。
まとめ
世界的な人気ブランドSKIMSに突き付けられた「不十分」という評価は、ファッション業界と、それを享受する私たちに重い問いを投げかけています。
- 人気ブランドSKIMSが、環境・労働倫理の観点から「不十分」と評価された。
- 主な理由は、サプライチェーンの透明性の欠如、環境負荷の高い素材の使用、労働者の権利保護に関する情報不足。
- 企業のメッセージと実際の行動の一貫性が問われており、「グリーンウォッシュ」への警戒が必要。
- 消費者は、独立した評価を参考にし、素材を意識し、長く使えるものを選ぶことが重要。
次にあなたが服を手に取るとき、その一枚の裏にある物語を想像してみてください。その選択が、より良いファッションの未来を創る一歩になるかもしれません。
編集長コラム:このテーマに寄せるサステナビリティへの想い
私には小学生の娘がいますが、彼女もまた、カラフルで魅力的なファッションの世界に夢中です。しかし、親として、そしてサステナビリティを伝える者として、ただ「可愛い」という理由だけで服を選んでほしくない、という葛藤があります。その服がどこで、誰によって、どんな想いで作られたのか。その背景を知ることで、物を大切にする心や、社会への責任感が育まれると信じているからです。
ファッションは、自己表現の喜びを与えてくれる素晴らしい文化です。だからこそ、その喜びが、地球のどこかで誰かの犠牲の上に成り立っていてはならない。SKIMSのニュースは、改めてそのことを強く私に教えてくれました。美しさや心地よさと、倫理的であることは、必ず両立できるはずです。そんな未来のファッションを、次世代のために創り上げていく責任が、私たちにはあるのだと思います。
執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大
参考資料:Good On You, Fashion Revolution
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