「持続可能性は、日々の判断の静かな積み重ねから生まれる」——人材育成と意思決定支援で組織の長期的成長を支える永井堂元氏
SDGsという言葉が広く知られるようになった今日、多くの企業が環境や社会への取り組みを積極的に発信しています。しかし、持続可能な社会の実現には、派手なプロジェクトだけでなく、日々の経営判断や人材育成における「長期的視点」の浸透が欠かせません。映画業界でプロデューサーとして活躍し、18万部のベストセラー著者でもある永井堂元(ながい たかゆき)氏は、現在、経営者や専門職向けの意思決定支援・コンサルティングを通じて、人や組織が「長く健やかに続く」ための支援を行っています。直接的なSDGs事業ではないものの、その活動は持続可能な社会の基盤づくりに深く通じています。今回は永井氏に、長期的視点での経営支援とは何か、そしてそれがどのように組織の持続可能性につながるのかを伺いました。
短期的成果から長期的視点へ——支援の原点
日野:永井さんは映画業界から独立され、現在は経営者向けの支援をされていますが、なぜ「長期的視点」を重視するようになったのでしょうか。
永井氏:私自身、SDGsを特別な取り組みとして始めたという意識はありません。ただ、人材育成や経営支援を行う中で、「短期的な成果よりも、長く続く判断や仕組みが重要だ」と感じるようになりました。その考え方が、結果的にSDGsが目指す持続可能な社会の方向性と重なっていると感じています。
日野:「長期的視点が重要だ」と感じるようになったのは、具体的にどのような場面がきっかけだったのでしょうか?
永井氏:映画業界で外国映画のバイヤーやプロデューサーとして活動していた頃の経験が大きいですね。一つのプロジェクトを成功させるためには、目先の利益だけでなく、関わる人々との信頼関係や、作品が社会に与える影響を考える必要がありました。
日野:映画は公開されたら終わり、というわけではないんですね。
永井氏:そうなんです。映画は公開されて終わりではなく、観た人の心に残り、時には社会の価値観にまで影響を与えることがあります。たとえば、私も制作過程に関わる機会があったドキュメンタリー映画『うまれる』(2010年)は、出産や命について考えるきっかけを多くの人に与えました。公開から10年以上経っても上映会が続いているんです。そうした経験が、今の「長期的視点での支援」という考え方の原点になっています。
日野:10年以上経っても価値が続く。まさに「持続可能性」そのものですね。映画業界での経験が、現在のコンサルティングにどう活きているのか、もう少し具体的に教えていただけますか?
永井氏:映画制作では、企画から完成まで何年もかかることがあります。その間、関係者の考えも変わるし、市場環境も変わる。でも、最初に決めた「この作品で何を伝えたいか」という軸がブレなければ、最終的に良い作品になる。これは経営でも同じだと思うんです。外部環境がどう変わっても、組織の根っこにある価値観がしっかりしていれば、判断に迷わなくなる。
学び続けられる人材の育成と意思決定の質
日野:現在、特に力を入れている取り組みについて教えてください。
永井氏:具体的なSDGsゴールを掲げた活動というよりも、「学び続けられる人材の育成」と「経営者の意思決定の質を高める支援」という分野に間接的に関わっています。
日野:「間接的」とおっしゃいましたが、あえて直接的なSDGs活動をしない理由はありますか?
永井氏:SDGsを掲げること自体が目的になってしまうケースを、いくつか見てきたからです。「SDGsバッジをつけているけれど、実際には何も変わっていない」という企業も少なくありません。私は、経営者の判断の質が上がれば、結果として持続可能な選択が自然と増えていくと考えています。
日野:なるほど。SDGsの看板よりも、判断の質を変えることで根本からアプローチするということですね。具体的にはどのような支援をされているのでしょうか?
永井氏:私は記憶術や高速学習メソッドの分野で著書を出版し、幸いにも多くの方に読んでいただけました。その知見を活かして、経営者やマネジメント層が効率的に学び、成長し続けられる環境づくりを支援しています。また、コーチングの手法を取り入れた意思決定支援では、経営者が迷いなく判断できるようになることを目指しています。
日野:18万部のベストセラーとは驚きです。記憶術や学習法が、なぜ経営判断の質向上につながるのでしょうか?一見、別の領域のように感じますが。
永井氏:良い質問ですね。経営者が判断に迷う原因の多くは、「情報の整理ができていない」か「過去の経験を適切に参照できていない」かのどちらかなんです。記憶術や学習法は、単に暗記するためのものではなく、情報を構造化して、必要なときに必要な知識を引き出せるようにする技術です。これができると、判断のスピードと質が同時に上がります。
日野:興味深いですね。東洋思想も取り入れていると伺いましたが、これはどのように活用されているのでしょうか?
永井氏:西洋的な合理性だけでは説明しきれない判断を整理するために、九星気学などの視点を補助的なフレームワークとして活用しています。これは占いではなく、時間の流れや状況の変化を俯瞰するための一つのツールとして捉えています。
日野:「占いではない」というのは、どういう意味でしょうか?経営判断に東洋思想を使うことに抵抗を感じる方もいるかもしれませんが。
永井氏:おっしゃる通りで、最初は懐疑的な方も多いです。ただ、私が活用しているのは「時間には流れやリズムがある」という考え方の部分です。たとえば、「今は攻めるべき時期なのか、守るべき時期なのか」という判断は、データだけでは難しいことがあります。九星気学は、そうした「流れ」を読み取るための補助ツールとして使っています。
日野:西洋的なデータ分析と、東洋的な「流れ」の視点。両方を使い分けているということですね。
永井氏:そうです。どちらか一方だけでは見えないものがあります。数字やデータは過去の結果を示してくれますが、未来の方向性を示してくれるわけではありません。逆に、東洋思想だけに頼ると、具体的な行動計画が曖昧になりがちです。両方をバランスよく使うことで、長期的に見て正しい判断ができるようになるのです。
100年続く保育園が教えてくれた「続いてきた理由」
日野:取り組みの中で、印象的だったエピソードはありますか。
永井氏:短期的な成果を求めていた経営者の方が、長期視点で事業や組織の在り方を見直したことで、結果的に組織が安定したという事例がいくつかあります。
特に印象深いのは、京都で100年近く続く保育園を運営されている園長の方の事例です。
日野:100年近く続く保育園。それ自体がすごいことですね。どのような課題を抱えていたのでしょうか?
永井氏:長年、保育士の先生の入れ替わりの多さに悩まれていました。業務の効率化や制度の見直しだけでは根本的な解決にならず、どうすればよいかと相談を受けました。
日野:保育士の離職率は業界全体の課題ですよね。一般的には給与や労働環境の改善が解決策として挙げられますが、永井さんはどのようなアプローチを取られたのでしょうか?
永井氏:私からの提案は、園の成り立ちや大切にしてきた価値観をあらためて言語化し、職員と共有することに時間をかけることでした。
日野:制度の見直しではなく、「価値観の言語化」ですか。それはなぜでしょうか?
永井氏:離職率が高い組織には、共通点があるんです。それは、「なぜこの組織で働くのか」という問いに対する答えが、組織の中で共有されていないこと。給与や制度を改善しても、その問いに答えがなければ、より条件の良い職場が見つかれば人は移っていきます。
日野:なるほど。では、「なぜこの保育園が100年近く続いてきたのか」という問いを掘り下げていったわけですね。どのような発見がありましたか?
永井氏:創業者の想いや、地域との関わり、子どもたちへの姿勢など、普段は言葉にされない大切な価値が見えてきました。たとえば、創業当時は地域の子どもたちが安心して過ごせる場所が少なかったそうです。その課題を解決するために園が生まれ、100年間ずっと「地域の子どもたちの居場所であり続ける」という使命を果たしてきた。
日野:その使命は、現在も受け継がれているのでしょうか?
永井氏:それが、言語化するまで明確に意識されていなかったんです。日々の業務に追われる中で、「なぜ自分たちはこの仕事をしているのか」という根本が見えにくくなっていた。言語化したことで、職員の方々が「自分はこの使命の一部を担っているんだ」と感じられるようになりました。
日野:言語化のプロセスは、具体的にどのように進められたのでしょうか?
永井氏:まず、園長や古参の職員の方々にヒアリングを行い、創業当時のエピソードや、これまで大切にしてきたことを聞き出しました。次に、それを文章にまとめ、全職員で共有するワークショップを開催しました。重要なのは、上から押し付けるのではなく、職員一人ひとりが「自分の言葉で語れる」ようになることです。
日野:その結果、どのような変化がありましたか?
永井氏:人材の定着に関する前向きな変化が見られるようになり、無事に創立100周年祭を迎えることができたと伺っています。
日野:100周年を迎えられたのは素晴らしいですね。定着率の変化は、数値としてはどのくらいだったのでしょうか?
永井氏:具体的な数値は公開していませんが、園長からは「以前は毎年のように退職者が出ていたが、この2〜3年は安定している」と伺っています。また、「採用面接で志望動機を聞いたとき、園の理念に共感したという応募者が増えた」という声もありました。
日野:採用の質も変わったということですね。この事例から、他の経営者が学べるポイントは何でしょうか?
永井氏:「続いてきた理由」に立ち返ることの重要性です。短期的な対症療法——たとえば給与を上げる、福利厚生を充実させる——も大切ですが、それだけでは根本的な解決にならないことが多い。組織や人が本来持っている力——私はこれを「内在する可能性」と呼んでいますが——を引き出すことが重要です。
関連するSDGsゴール
- ゴール4(質の高い教育をみんなに):学び続けられる人材の育成、高速学習メソッドを活用した教育支援
- ゴール8(働きがいも経済成長も):経営者の意思決定支援による組織の持続的成長、人材定着率の向上
- ゴール11(住み続けられるまちづくりを):100年続く保育園の支援など、地域に根ざした組織の継承支援
- ゴール17(パートナーシップで目標を達成しよう):経営者・専門職とのパートナーシップによる長期的価値創造
数値化しにくい成果と、確かな変化
日野:支援の成果は、どのような形で表れていますか。数値化しにくい分野だと思いますが。
永井氏:おっしゃる通り、数値化しにくい部分ではあります。ただ、クライアントからは次のような声をいただくことが増えています。
「判断に迷う時間が減った」 「組織内のコミュニケーションが円滑になった」 「中途採用した社員の定着率が上がった」
日野:「判断に迷う時間が減った」というのは、経営者にとっては大きな変化ですよね。具体的にはどのくらいの変化があるものでしょうか?
永井氏:ある経営者の方は、「以前は重要な判断に1週間以上悩むことがあったが、今は2〜3日で決められるようになった」とおっしゃっていました。判断のスピードが上がるだけでなく、「決めた後の後悔が減った」という声も多いです。
日野:判断のスピードと質が同時に上がっている。これは組織全体にどのような影響を与えますか?
永井氏:経営者の判断が早くなると、組織全体の動きも早くなります。また、経営者が迷っている時間が減ると、その分、本来注力すべきことに時間を使えるようになります。コミュニケーションが円滑になれば、組織全体のストレスが減り、創造性が発揮されやすくなります。そして人材が定着すれば、知識やノウハウが組織に蓄積され、長期的な競争力につながります。
日野:それぞれが連鎖して、組織全体の持続可能性が高まっていくわけですね。
専門分野を超えた「判断・時間・流れ」という共通テーマ
日野:他社にはない、永井さんならではの特徴や強みは何でしょうか。
永井氏:専門分野や業界を限定せず、「判断」「時間」「流れ」という共通テーマで支援している点だと思います。
日野:業界を限定しないというのは、逆に難しくないですか?業界ごとに課題も違いますよね。
永井氏:確かに、表面的な課題は業界ごとに異なります。でも、「どう判断すべきか」「どのタイミングで動くべきか」「この流れをどう読むか」という問いは、保育園の経営者も、IT企業の創業者も、医療法人の理事長も、共通して抱えています。
日野:業界特有の知識がなくても支援できるということですか?
永井氏:業界特有の知識はクライアント自身がお持ちですから、私はむしろ業界の常識にとらわれない視点から、判断の整理をお手伝いすることに価値があると考えています。業界の中にいると見えにくいことが、外からだと見えることがあるんです。
日野:なるほど。映画業界での経験も、そうした「外からの視点」を持つことに役立っているのでしょうか。
永井氏:映画業界で培った「企画を実現する力」と「編集の視点」は活きていると思います。映画は企画から完成まで何年もかかることがあり、その間に状況は変化し続けます。その中でプロジェクトを前に進め、最終的に一つの作品としてまとめ上げる——この経験は、経営者が長期的なビジョンを持ちながら日々の判断を重ねていく過程と、本質的に似ていると感じています。
一般社団法人設立へ——社会的な文脈での活動拡大
日野:今後の展望についてお聞かせください。
永井氏:今後も、人や組織が長く健やかに続くための視点を整理し、必要に応じて知見を共有していきたいと考えています。
日野:新たな取り組みの予定はありますか?
永井氏:はい。個人としての活動に加え、文化や地域、組織の継承といったテーマをより社会的な文脈で扱うため、新たに一般社団法人という形での活動も準備を進めています。
日野:一般社団法人を設立されるのですね。個人での活動と、何が変わるのでしょうか?
永井氏:個人での支援は、どうしても一対一の関係になります。一般社団法人にすることで、より多くの人や組織に知見を届けられるようになると考えています。また、「継承」というテーマは、個別の企業支援を超えた社会全体の課題です。100年続く保育園のような事例を通じて感じたのは、技術やノウハウだけでなく、その組織や地域が大切にしてきた価値観をどう次世代に伝えていくかという問いの重要性です。
日野:「継承」というテーマは、まさにSDGsの本質とも言えますね。5年後、10年後には、この活動がどのように発展していることを期待しますか?
永井氏:「継承」というテーマに取り組む人や組織が増えることを期待しています。今は、どうしても短期的な成果を求める風潮が強い。でも、100年続く組織があるということは、そこに「続ける知恵」があるということです。その知恵を言語化し、共有することで、より多くの組織が長く続けられるようになる。それが、結果として持続可能な社会につながっていくと信じています。
読者へのメッセージ——日々の判断が未来をつくる
日野:最後に、読者へのメッセージをお願いします。経営者や、これから何かを始めようとしている方に向けて、「今日からできる一歩」があれば教えてください。
永井氏:日々の判断の積み重ねが、御社のこれからの時間を形づくります。次の周年を見据えながら、人や組織が長く健やかに続く視点を持つことが、次の成長につながると感じています。
日野:具体的に、今日から始められることはありますか?
永井氏:一つ提案するなら、「なぜ自分たちはこの仕事をしているのか」という問いを、改めて考えてみることです。日々の業務に追われていると、この根本的な問いを忘れがちになります。でも、この問いに明確な答えを持っていると、判断に迷ったときの軸になります。
派手な取り組みや即効性のある施策に目が向きがちですが、持続可能性は、日々の判断の静かな積み重ねから生まれるものです。5年後、10年後、そして次の世代に何を残したいか——そうした問いを持ちながら経営に向き合うことが、結果的にSDGsが目指す持続可能な社会の実現にもつながっていくのではないでしょうか。
日野:「なぜこの仕事をしているのか」という問い。シンプルですが、深い問いですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。
永井氏:こちらこそ、ありがとうございました。
永井堂元(ながい たかゆき) 脳業法人エタニティー合同会社 代表社員/ビジネスコンサルタント 1967年神戸市生まれ。東京大学法学部卒業後、映画業界では本名の永井正敏として、外国映画のバイヤーやプロデューサーとして活動。記憶術・高速学習分野での著書『イラスト記憶法で脳に刷り込む英単語1880』は18万部のベストセラーに。現在は経営者・専門職向けに意思決定支援を行い、人や組織が本来持っている力を引き出し、長期的に持続可能な成長を支援している。
公式サイト: # note: https://note.com/dougen_kigaku61


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