こんにちは、「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長の日野広大です。
女優のシドニー・スウィーニーさんを起用したジーンズブランド「アメリカン・イーグル」の広告が、世界中で大きな物議を醸しています。SNSでは「挑発的だ」「配慮に欠ける」といった声が飛び交い、瞬く間に拡散され、「炎上マーケティング」とも言えるでしょう。同社は8月29日、プロフットボールNFLのトラビス・ケルシー選手が展開するファッションブランドとコラボ商品を販売すると発表し、引き続き注目を集めています。ケルシー選手は、世界的に人気の歌手、テイラー・スウィフトさんの婚約者となったばかり。コラボが好感され、アメリカン・イーグルの株価は8%以上、上昇しました。
しかし、この夏お騒がせのアメリカン・イーグル社の「炎上」を単なるゴシップで終わらせてしまうのは非常にもったいない。日本語では炎上理由がわかりづらいですが、実はこの一件、SDGsが掲げるジェンダー平等や企業の社会的責任といった、私たちの未来に関わる重要なテーマを浮き彫りにしています。今回はこのニュースをSDGsの視点から深掘りし、一枚の広告が社会に問いかけるものについて一緒に考えていきましょう。
こんな人におすすめです
- シドニー・スウィーニーの広告ニュースの背景にある、より深い問題に関心がある方
- 広告やメディアにおけるジェンダー表現について考えたい方
- 企業の姿勢や「倫理的な消費(エシカル消費)」に関心のある方
広告の概要:何が問題になったのか?
まず、何がこれほどの論争を巻き起こしたのか、ポイントを整理しましょう。
- 「遺伝子」と「ジーンズ」の言葉遊び: 広告では「Sydney Sweeney has great genes」というキャッチコピーが使われ、彼女が「genes(遺伝子)」を「jeans(ジーンズ)」に書き換える場面があります。これが、優れた遺伝子を称賛する「優生学」を連想させるとの批判を呼びました。
- 過度に性的な表現: カメラが彼女の胸を長く映すなど、その演出が過度にセクシャルであるとの指摘が相次ぎました。これは、1980年に当時15歳だったブルック・シールズを起用し、未成年者の性的搾取だと非難されたカルバン・クラインの広告を彷彿とさせるとの声もありました。
- 慈善活動との乖離: このキャンペーンは、売上の100%がメンタルヘルスを支援する非営利団体に寄付される、家庭内暴力への意識向上を目的としたものでした。しかし、広告の性的なトーンが、この真剣なテーマと相容れないという批判が噴出しました。
SDGsの視点で見る3つの論点
この複雑な問題を、SDGsという羅針盤を使って読み解いてみましょう。
論点1:ジェンダーの性的消費と企業のメッセージ(SDGs目標5)
今回の広告で最も大きな批判の一つが、女性の体を性的に強調する表現でした。これはSDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」に深く関わる問題です。
広告における女性のステレオタイプな描写や性的対象化は、社会における女性の地位や尊厳を損なう一因となり得ます。特に問題なのは、この広告が「家庭内暴力への意識向上」という目的を掲げていた点です。広告の性的なイメージが強すぎたために、本来伝えられるべきだったはずの重要な社会的メッセージは、世間の注目からほとんど消えてしまいました。
企業が発信するメッセージと、その表現方法に一貫性がない場合、せっかくの善意が誤解されたり、意図が伝わらなかったりする危険性があるのです。
論点2:「無意識の差別」と不平等の助長(SDGs目標10)
「genes(遺伝子)」という言葉を使った表現は、白人ナショナリズムの代替理論に加担しているとさえ指摘されました。制作者にその意図がなかったとしても、文化的に非常にデリケートなテーマを安易に扱うことで、結果的にSDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」の精神に反するメッセージを発信してしまう可能性があります。
多様な文化背景を持つ人々が暮らす現代社会において、企業は自らの表現が特定のグループを傷つけたり、社会の分断を煽ったりしないよう、細心の注意を払う責任があります。
論点3:「炎上商法」と企業の社会的責任(SDGs目標12)
この広告によって、アメリカン・イーグルの市場価値は2億ドル以上増加し、商品はほとんど売り切れたと報じられています。専門家の中には、この広告が意図的に論争を巻き起こし、注目を集める「炎上商法」だった可能性を指摘する声もあります。
ペンシルベニア大学のある専門家は、「怒りや憎しみの収益性」に言及し、注目を集めるためには手段を選ばない現代の経済を指摘しています。
もし意図的だったとすれば、これはSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」における、企業の倫理的な姿勢(サステナブルな生産消費形態)に疑問を投げかけます。短期的な利益のために社会的な分断や対立を煽るような手法は、持続可能な社会の実現とは相容れません。
私たちにできること:賢い消費者になるために
このニュースから私たちが学ぶべきは、一つの商品を手に取るとき、その背景にある企業の姿勢を想像することの大切さです。
- 情報を多角的に見る: 炎上しているという事実だけでなく、「なぜそうなったのか」「その裏にどんな社会問題が隠れているのか」を考えてみましょう。
- 企業のメッセージに耳を傾ける: 企業のウェブサイトやサステナビリティレポートなどを確認し、その企業がどのような価値観を大切にしているかを知ることも一つの方法です。
- 私たちの選択が未来をつくる: 私たち消費者一人ひとりの選択は、企業に対する強力なメッセージになります。倫理的で、社会に誠実な企業を応援することが、より良い未来への一票となるのです。
まとめ:広告一枚に映し出される社会の課題
シドニー・スウィーニーさんの広告をめぐる一件は、単なる芸能ニュースではなく、ジェンダー、人種、企業の責任といった、SDGsが取り組む根深い課題を映し出す鏡のような出来事でした。
私たちの身の回りにある広告や商品一つひとつが、どのような社会を目指すのかという企業の意思表示でもあります。そのメッセージを正しく読み解き、賢く選択していくこと。それこそが、持続可能な未来を手繰り寄せるための、私たちにできるアクションなのです。
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