日野編集長のコラム
【SDGs】農家の手取り175万円。日本の「食」は持続可能か?
こんにちは、「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長の日野広大です。
海外から日本に帰国するたびに、私は日本の「食の豊かさ」に感動します。高品質で衛生的な食事が、驚くほど低価格で楽しめる。この世界随一の食生活は、地方の生産者の方々の努力によって支えられています。
しかし、その生産者の方々が今、極めて厳しい状況に置かれていることをご存知でしょうか。
書籍『田舎の思考を知らずして、地方を語ることなかれ』によれば、日本の個人農家の平均年収は約350万円ですが、重い経費負担を差し引いた実質的な手取り(所得)は、平均で約175万円にしかならないという衝撃的な実情が報告されています。
私たちは「安くて美味しい国産品」を求め続けていますが、その裏で生産者の生活が破綻寸前だとすれば、この国の「食」は持続可能と言えるのでしょうか。
この問題は、【用語解説】SDGsとは?17のゴールと169のターゲットを徹底解説! の目標2「飢餓をゼロに(食料安全保障)」や目標12「つくる責任 つかう責任」に直結する、私たち全員の課題です。
こんな人におすすめです
- 「安くて美味しい」国産の食べ物を求めている方
- 日本の食料自給率や食の未来に不安を感じている方
- 地方の過疎化や第一次産業の問題に関心がある方
- 欧米と日本の農業政策の違いを知りたい方
衝撃の「手取り175万円」という実情
[Image: 畑でため息をつく農家のイラスト]
まず、日本の農家の厳しい経済状況を直視しましょう。
個人農家の平均年収(売上)は約350万円。これだけ見ると「地方の平均年収(約225万円)よりは良い」と思うかもしれません。
しかし、農業は経費負担が非常に重い産業です。種苗、肥料、飼料、農業機械、燃料費、修繕費、共済金など。これらを差し引くと、手元に残る所得は年収の半分ほど、平均約175万円になってしまうのです。
記事によれば、「経費の水増しで節税を図らないと生活が破綻して農家を続けられない」農家も多い という、切実な声が紹介されています。新規就農者が黒字化するまでに平均4年もかかる という現実も、この厳しさを裏付けています。
なぜ日本だけが厳しいのか?欧米との「補助金格差」
[Image: アメリカの広大な農地と、スイスの手厚い補助金を示すグラフのイメージ]
「どの国の農家も同じように厳しいのではないか」と思うかもしれませんが、現実は全く違います。
西欧:「みなし公務員」レベルの手厚い保護
スイスでは、農業所得に占める補助金の割合はほぼ100%。イギリスやフランスは約90%、ドイツも約80%です。
ヨーロッパでは「都市部を支える田舎(農家)を守るのは公平だ」という国民的合意があり、農家は「みなし公務員」のように手厚く保護されています。
アメリカ:「儲けすぎ」と批判される大規模経営
アメリカの補助金割合は日本と同じ約30%です。しかし、決定的に違うのはその「規模」です。
地平線の彼方まで続く広大な平野で、大規模な機械化・効率化を進めており、少人数で大量生産が可能です。その結果、アメリカの農家は「儲けすぎている」と批判されるほど、高い収益を上げています。
日本:「狭い国土」と「低い補助金」の二重苦
一方、日本は山岳国家であり、平野が少ないため生産効率が悪い。北海道のように広大な平野を持つ地域は例外で、北海道とそれ以外の地域では農家の平均年収が2倍近くも違います。
この「不利な地形」というハンディキャップを抱えながら、西欧のような「手厚い補助金」もない。
この状況で、私たちはアメリカ産や中国産と同レベルの低価格を国産品に求めているのです。
なぜこれがSDGsにとって重要なのか?
この問題は、SDGsが目指す「持続可能な社会」の根幹を揺るがす重大な課題です。
SDGs 2:食料安全保障の崩壊
[Image: SDGs目標2「飢餓をゼロに」のアイコン]
私たちは「食料の安定供給」を当たり前のものとしていますが、それは生産者の犠牲の上に成り立っています。手取り175万円では、後継者が育つはずもありません。
2-4. 強靭(レジリエント)な農業の実践 が目指す「持続可能な農業」とは、環境だけでなく、生産者の「生活」も持続可能でなければなりません。このままでは、日本の食料安全保障は崩壊してしまいます。
SDGs 12:私たちの「安さ」への要求が招く歪み
[Image: SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」のアイコン]
記事では「私たちは娯楽の価格は高くても払うのに、食料の価格は高いと文句を言う」 と指摘されています。
これはまさに、【用語解説】サステナブル消費とは?SDGsの観点から解説 が問うている点です。私たちは「つかう責任」として、その価格が生産者の生活を破壊していないか、考える必要があります。
SDGs 11:「美しい田園風景」と「過疎化」の矛盾
私たちは「のどかな田園風景」を求め、それを維持する第一次産業を地方に押し付けています。
しかし、皮肉なことに、農業や畜産業は広大な土地を必要とし、機械化で人手も減るため、「第一次産業の振興は過疎化につながる」 のです。
「美しい風景」の維持を求める一方で、そこで暮らす人々の生活の持続可能性を無視するという矛盾が起きています。
私たちにできること:日野広大の視点
では、私たちは何ができるでしょうか。
1. 「適正な価格」について社会全体で議論する
西欧には「田舎を守るのが公平だ」という国民的合意があります。日本に必要なのは、「悲惨だから救う」という上から目線の支援ではなく、「私たちの食を支えるコストを、社会全体でどう負担するか」という国民的議論です。
2. 「なぜ安いのか?」を問い直す消費者になる
私たち個人にできることは、日々の買い物で「なぜこの野菜はこんなに安いのか?」と一度立ち止まることです。
その安さが、生産者の生活や、未来の食料安全保障を犠牲にしていないか。価格だけでなく、その背景にある「価値」を見て選ぶこと。それこそが、【用語解説】エシカル消費とは?初心者向けに意味や事例を詳しく解説! の第一歩です。
まとめ
農業は、伝統文化や政治家のためにあるのではなく、生産者と消費者(私たち)のためにあります。
手取り175万円という現実は、日本の「食」が持続可能ではないという悲鳴です。「安くて美味しい」という恩恵をこれからも享受し続けたいのであれば、私たち消費者が意識を変え、生産者を「適正に」支える仕組みについて、本気で考え直す時が来ています。
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