核融合発電、ついに国家戦略へ!日本政府「2030年代実証」を明記、夢のエネルギー実現へのロードマップとは?

脱炭素とSDGsの知恵袋の編集長、日野広大です。私たちの活動は、幸いにも政府SDGs推進本部からもジャパンSDGsアワード「外務大臣賞」を受賞するなど、その専門性を評価いただいております。本日(2025年5月19日)飛び込んできた、日本のエネルギー政策における歴史的な一歩とも言えるニュースを緊急解説いたします。政府が、次世代のクリーンエネルギーとして期待される核融合発電について、「2030年代に実証する」という方針を国家戦略に初めて明文化するとのことです。これが何を意味し、私たちの未来やSDGs達成にどう関わってくるのか、詳細に紐解いていきましょう。

本記事のポイント:

  • ついに明文化!核融合発電「2030年代実証」が日本の国家戦略に
  • なぜ今、核融合発電なのか?その仕組みと「夢のエネルギー」たる所以
  • 国際競争と日本の立ち位置:ITER計画の遅延と独自技術開発の必要性
  • 官民一体の推進体制:新タスクフォース設置と活発化する民間企業の動き
  • 乗り越えるべき技術的ハードルと、実用化への期待
  • 核融合発電が拓く未来と、私たちが注目すべきこと
目次

国家戦略に刻まれた「2030年代実証」:日本の覚悟

本日報じられた内容によれば、政府は2023年に策定した核融合発電に関する「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を近く改定し、「世界に先駆けた30年代の実証をめざす」と明確に記載する方針です。これまで実証時期については「早期に明確化する」との表現に留まっていましたが、具体的な年代目標を国家戦略に掲げることで、日本がこの分野で世界をリードし、技術の規格化や産業育成に主体的に取り組む姿勢を内外に示すことになります。

さらに、この目標達成に向けた具体的な工程表(ロードマップ)も作成される予定であり、計画の具体性が一気に増すことになります。

核融合発電とは? なぜ「夢のエネルギー」と呼ばれるのか

核融合発電は、太陽がエネルギーを生み出しているのと同じ原理を地球上で再現しようとする技術です。その主な特徴と期待されるメリットは以下の通りです。

  1. 高い安全性:
    • 現在の原子力発電(核分裂)とは異なり、連鎖反応による暴走事故の原理的なリスクが極めて低いとされています。
    • 使用済み核燃料のような高レベル放射性廃棄物の処理問題も、原子力発電に比べて大幅に低減されると期待されています。
  2. 環境負荷の低さ:
    • 発電過程で二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスを排出しません。これは、SDGsの目標13「気候変動に具体的な対策を」に大きく貢献します。
  3. 豊富な燃料資源:
    • 主燃料となる重水素やリチウム(三重水素の原料)は海水中に豊富に存在するため、資源枯渇の心配が少なく、エネルギー安全保障の観点からも非常に有利です(SDGs目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」)。

これらの理由から、核融合発電はしばしば「夢のエネルギー」と称され、実用化が強く待ち望まれています。

国際協力と競争:ITERの遅延と日本の独自路線強化

日本はこれまで、日米欧露中韓印の7極が参加する国際熱核融合実験炉(ITER)計画に軸足を置き、その成果を基に2050年代の発電実証を目指すロードマップを描いてきました。ITERはフランスで建設中の巨大な実験施設で、核融合反応を持続させる技術の実証を目的としています(発電自体は行いません)。

しかし、このITER計画は部品の不具合や新型コロナウイルスの影響などで建設が遅延しており、当初2025年としていた研究運転開始目標は2034年へと大幅に後退しています。中国などはこの遅れを見越して、独自の実験設備建設を進めるなど、国際的な開発競争は激化しています。

こうした背景に加え、国内ではデータセンターの設置拡大やAIの普及に伴う電力需要の急増が見込まれており、クリーンで安定した大規模電源の早期確保が喫緊の課題となっています。これが、日本政府がITERとは別に、国内での早期実証を目指す方針を明確にした大きな理由の一つと考えられます。

官民連携で加速する日本の核融合開発

新たな戦略では、核融合発電の実現による産業競争力や経済安全保障の強化が謳われ、その実用化を加速するため、内閣府に専門のタスクフォースを設置することが盛り込まれる予定です。このタスクフォースでは、法制度、予算、人材育成といった多岐にわたる課題を一体的に洗い出し、推進体制を強化します。

また、国際標準化への取り組みも重要な柱です。日本が核融合技術に関する国際的な規格策定を主導できれば、国内企業がグローバル市場で有利に事業を展開しやすくなります(SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」)。

民間企業の動きも活発化しています。

  • 一般社団法人フュージョンエネルギー産業協議会(J-Fusion): 2024年3月に発足。三菱重工業やIHIといった炉の製造に関わる企業に加え、三井物産やNTTなど、幅広い業界から80社以上が参画し、産業界全体での取り組みを推進しています。
  • 京都フュージョニアリング: 核融合スタートアップの同社は、2024年11月に発電実証に向けた産学連携プロジェクト「FAST」を立ち上げました。東京大学や九州大学などの研究者が参加し、2030年代中ごろから後半にかけての実証を目指しています。

このように、政府の明確な方針と民間企業の積極的な投資・開発が一体となり、日本の核融合エネルギー開発は新たなフェーズに入ったと言えるでしょう。

「1億度プラズマ」制御の壁:乗り越えるべき技術的ハードル

「夢のエネルギー」実現への期待は大きいものの、乗り越えるべき技術的なハードルは依然として高いのが現実です。核融合反応を起こすためには、燃料をセ氏1億度以上という超高温状態にし、「プラズマ」と呼ばれる電離したガス状態にする必要があります。

ITERなどが採用している「トカマク型」と呼ばれる方式では、この超高温プラズマを強力な磁場を使って閉じ込め、核融合反応を持続させます。しかし、プラズマは極めて不安定で、その形状や状態を精密に、かつ長時間維持・制御することが非常に難しいとされています。このプラズマ制御技術の確立が、実用化に向けた最大の鍵の一つです。

核融合発電が拓く未来と私たちが注目すべきこと

もし核融合発電が実用化されれば、私たちの社会に計り知れない恩恵をもたらす可能性があります。

  • エネルギーの安定供給: 気象条件に左右されず、24時間安定的に大規模な電力を供給できるベースロード電源となり得ます。
  • 脱炭素社会の実現: 温室効果ガスを排出しないため、気候変動対策の切り札として期待されます。
  • 新産業の創出と経済効果: 核融合関連技術は多岐にわたり、新たな産業クラスターの形成や、高度な専門知識を持つ人材の育成、そして経済波及効果が見込めます。

今回の政府方針は、この未来に向けた日本の強い意志表示です。私たち市民としても、この「夢のエネルギー」の動向に注目し、エネルギー問題や地球環境問題について考える良い機会となるでしょう。企業にとっては、将来のエネルギー供給構造の変化を見据え、関連技術への関心や、新たなビジネスチャンスの可能性を探るきっかけとなるかもしれません。

まとめ:日本の未来を賭けた挑戦、核融合エネルギー実用化への道筋

政府による核融合発電「2030年代実証」方針の国家戦略への明記は、日本のエネルギー政策における重要な転換点です。国際協力と競争が交錯する中、日本が独自の強みを発揮し、官民一体となってこの壮大な目標に挑む姿勢が鮮明になりました。

技術的な課題は決して小さくありませんが、その先にあるクリーンで持続可能なエネルギー社会の実現に向け、日本の挑戦が今、本格的に始まろうとしています。私たち「脱炭素とSDGsの知恵袋」は、この国家的なプロジェクトの進捗を引き続き注視し、その意義や課題について皆様と共に考えていきたいと思います。


執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大
参考資料:

  • 日本経済新聞 2025年5月19日 「核融合発電「2030年代に実証」 政府が国家戦略に、工程表作成へ」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA022Z00S5A500C2000000/
  • 内閣府 フュージョンエネルギー(核融合)関連政策資料
  • 経済産業省 エネルギー基本計画関連資料

[パーマリンク案]
https://example.com/sdgs-blog/japan-fusion-energy-strategy-2030s-demonstration-decarbonization-sdgs

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