【専門家解説】GX推進法とは?日本の炭素税はいつから?20兆円投資と将来負担の仕組み

こんにちは。「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長の日野広大です。私たちは、政府の「ジャパンSDGsアワード」で外務大臣賞をいただいた企業の知見を活かし、日本の未来を左右する重要な政策を専門的かつ分かりやすく解説しています。

今回は、日本の脱炭素政策の根幹をなす「GX推進法(脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律)」について、その核心を深掘りします。「事実上の炭素税はいつから始まるの?」「私たちの生活にどう影響するの?」といった疑問に、Q&A形式も交えながらお答えします。

この記事を読めば、以下の重要点がスッキリ理解できます。

  • GX推進法の目的と、なぜ今必要なのか
  • 「カーボンプライシング」の具体的な中身と開始時期
  • 20兆円規模の先行投資を支える「GX経済移行債」の仕組み
  • 企業や個人に求められるこれからのアクション
目次

日本の未来を変える「GX推進法」とは?国の狙いを3つのポイントで速習

2025年6月6日に施行されたGX推進法は、単なる環境規制ではありません。「脱炭素」をテコに日本の「産業競争力」と「経済成長」を実現するための、壮大な設計図です。

  1. 目的は「一石三鳥」: エネルギー危機を踏まえ、①脱炭素、②エネルギーの安定供給、③産業競争力の強化を同時に達成することを目指します。
  2. 大規模な先行投資: 今後10年間で150兆円超の官民GX投資を実現するため、国がまず「GX経済移行債」という新しい国債を約20兆円発行し、企業の脱炭素投資を強力に後押しします。
  3. 将来の財源確保: 先行投資の返済財源として、将来的にCO2を排出する事業者に負担を求める「成長志向型カーボンプライシング」を導入します。

参考資料:内閣官房「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案(GX推進法案)の概要」

核心を解説!「成長志向型カーボンプライシング」の2本柱

多くの人が最も気になっているのが、この「カーボンプライシング」でしょう。これは、CO2排出に値付けをすることで、排出削減を促す経済的な仕組みのことです。GX推進法では、以下の2段階で導入されます。

① 2028年度からスタート「化石燃料賦課金」

  • これは何?: 石油や石炭、天然ガスといった化石燃料を輸入する事業者などに対し、そのCO2排出量に応じて課される「お金」です。
  • 誰が払うの?: 電力会社やガス会社、燃料輸入業者などです。しかし、そのコストは電気料金やガソリン価格などに上乗せされる形で、最終的には広く国民や企業が負担することになります。
  • いつから?: 2028年度から導入されます。
  • 分かりやすく言うと: これは「広く浅く」負担を求める、事実上の炭素税と理解してよいでしょう。最初は低い負担額から始まり、経済への影響を見ながら段階的に引き上げられる予定です。

② 2033年度からスタート「特定事業者負担金」

  • これは何?: 排出量取引制度(GX-ETS)の一環で、CO2を特に多く排出する発電事業者が対象です。国が定めた排出量の上限を超えて排出したい場合、その「排出する権利(排出枠)」をオークション形式で買い取らなければなりません。その購入代金が「特定事業者負担金」となります。
  • 誰が払うの?: 主に発電事業者です。
  • いつから?: 2033年度から導入が予定されています。
  • 分かりやすく言うと: こちらは「特定分野に深く」負担を求める仕組みです。CO2削減努力をしない企業ほど負担が重くなる設計で、より強力な削減インセンティブを狙っています。

20兆円の先行投資を担う「GX経済移行債」の巧妙な仕組み

「将来負担が増えるのは分かったけど、なぜ先に投資するの?」という疑問が湧くかもしれません。これがGX推進法の最も重要なポイントです。

この仕組みは、「家の省エネリフォーム」に例えると分かりやすいでしょう。

  • 現状: 古くて断熱性能の低い家(従来の経済構造)に住んでいるため、光熱費(エネルギーコスト)が高い。
  • GX経済移行債(リフォームローン): 先にローンを組んで、断熱改修や高効率給湯器の設置(GX投資)を行う。
  • 効果: リフォーム後の家は快適で、光熱費が大幅に下がる(産業競争力強化)。
  • 将来負担(ローン返済): 下がった光熱費の一部や、リフォームで生まれた新たな価値(成長の果実)を使って、無理なくローンを返済していく。

このように、先に大規模な投資を行うことで、負担の痛みを上回る成長と競争力を生み出し、その果実で将来の負担を賄おうというのが国の戦略です。これにより、企業の投資意欲を削がずに、脱炭素への移行を加速させることができます。

企業と私たちの生活への影響は?

この法律は、日本社会全体に大きな変革を促します。

【企業の視点】

  • コスト構造の変化: 化石燃料への依存度が高いビジネスモデルは、将来的なコスト増に直面します。エネルギー効率の改善や再エネへの転換が急務となります。
  • 新たなビジネスチャンス: GX経済移行債による支援は、省エネ技術、蓄電池、水素関連技術など、脱炭素に貢献する分野に大きなビジネスチャンスをもたらします。
  • 資金調達への影響: 脱炭素への取り組みが、融資や投資を受ける際の重要な評価軸になります。私たちFrankPRでも、企業のGX戦略策定や、脱炭素化に向けた情報開示の支援を強化しています。

【個人の視点】

  • 緩やかな負担増: 2028年以降、電気料金やガソリン価格などを通じて、緩やかに負担が増える可能性があります。
  • 賢い選択が求められる: 省エネ性能の高い家電や住宅、電気自動車(EV)などを選ぶことが、家計の防衛に直結します。
  • 新しいサービスの登場: 再生可能エネルギー100%の電力プランや、家庭の太陽光発電を有効活用する新しいサービスなどが、より身近になるでしょう。

まとめ:GX推進法は日本の未来への「成長チケット」

GX推進法は、単なる環境規制法ではありません。それは、将来の負担という「チケット代」を支払うことを約束し、脱炭素という新しい成長分野へ日本経済を導くための「先行投資チケット」を手に入れる法律です。

2028年、2033年という具体的なマイルストーンが示された今、企業も個人も、この大きな変化を「コスト」としてだけ捉えるのではなく、自らを変革し、成長するための「チャンス」として捉える視点が不可欠です。

この法律が、日本の未来を真に豊かにする「成長チケット」となるか。それは、これからの私たち一人ひとりの行動にかかっています。

さらに詳しく知りたい方へ


執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大
参考資料: 内閣官房「脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律案(GX推進法案)の概要」

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