こんにちは。「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長の日野広大です。私たちのメディア運営元であるFrankPRは、SDGsへの貢献が評価され、政府SDGs推進本部より「ジャパンSDGsアワード」外務大臣賞をいただいています。その専門的知見から、今回は世界を駆け巡った「ESGマネー逆流」という衝撃的なニュースを深掘りします。
「ESG投資のブームは終わった」「脱炭素はもう儲からない」――。そんな声が聞こえてきそうなニュースが報じられました。これまで世界のESG(環境・社会・企業統治)投資を牽引してきた欧州のESGファンドから、2025年第1四半期に史上初めて資金が流出超に転じたのです。
これは、脱炭素や持続可能な社会を目指す大きな潮流の終わりを意味するのでしょうか?いいえ、私はこれは一時的な「冬の時代」であり、同時に「本物」が選別される「質の転換期」の始まりだと考えています。この記事では、なぜ今ESG投資に逆風が吹いているのか、その複合的な要因と、私たちがこの先に見据えるべき未来を解説します。
- 本記事のポイント
- 衝撃のデータ:ESG投資の牙城、欧州で史上初の資金流出。
- なぜ逆風が?背景にある「政治」「規制」「経済」の3つの要因。
- これは「冬の時代」か、それとも「質の転換期」か。
- 逆風の時代に、日本企業や私たち投資家がとるべき行動とは。
衝撃のデータ:最後の砦・欧州も陥落、世界のESGマネーが逆流
まずは、投資情報会社モーニングスターが発表した衝撃的なデータを見てみましょう。
- 欧州: 2025年1〜3月期に、ESGファンドから12億ドルが流出超に。統計が始まった2018年以来、初の事態です。
- 世界全体: 同時期に過去最大となる86億ドルが流出超。
- 米国・日本: 米国は10四半期連続、日本は11四半期連続で資金流出が続いています。
世界のESGファンド資産の84%を占める「最後の砦」だった欧州が流出超に転じたことで、世界の投資マネーの流れが明らかに変わりつつあることが示されました。
なぜ逆風が吹いているのか?3つの複合的要因
この逆風は、単一の理由で起きているわけではありません。主に3つの要因が複雑に絡み合っています。
要因1:米トランプ政権が煽る「反ESG」の政治的潮流
「ESGは企業の利益を損なうきれいごとだ」という「反ESG」の動きが、特に米国で強まっています。トランプ政権が、バイデン前政権が導入したインフレ抑制法(IRA)の気候変動対策補助金を削減する動きを見せるなど、ESGや脱炭素が政治的な対立の道具にされています。この政治的な不透明感が、投資家のリスク回避姿勢を強めています。
要イン2:「グリーンウォッシュ」への厳しい視線と投資家の選別
グリーンウォッシュとは、環境に配慮しているように「見せかける」行為のことです。これまでESGブームに乗り、実態が伴わないまま「ESGファンド」を名乗る商品も少なくありませんでした。
欧州の規制当局は、この見せかけのESGを排除するため、ファンドの定義を厳格化しています。その結果、基準を満たさないファンドが「ESG」のラベルを外さざるを得なくなり、統計上の資金流出につながっている側面もあります。これは、投資家がより本質的な取り組みを厳しく選別し始めた健全な動きとも言えます。
要因3:短期的なコスト増と企業の「本音」
世界的なインフレや、米国の関税政策などにより、企業のコストは増加しています。こうした状況下で、情報開示などの事務負担も大きいESGや脱炭素への投資は、どうしても優先順位が下がりがちになります。記事で紹介された欧州鉄鋼大手アルセロール・ミタルが、脱炭素の切り札とされた「水素製鉄」の計画中止を決めたのは、その象徴的な事例です。
これは「冬の時代」か、それとも「質の転換期」か
では、この逆風をどう捉えるべきでしょうか。私は、ブームの終焉は、本質が問われる時代の始まりだと考えます。
SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」や目標13「気候変動に具体的な対策を」といった人類共通の課題が消えてなくなったわけではありません。むしろ、気候変動のリスクは年々高まっています。
今回の資金流出は、「ESG」というラベルが貼ってあれば何でも売れたブームが終わり、本当に社会課題の解決に貢献し、長期的な企業価値向上につながる「本物」のESG投資だけが生き残る、淘汰と選別のプロセスに入ったと見るべきです。短期的な利益を追う投機マネーが去り、長期的な視点を持つ投資家が主役となる、より成熟した市場への転換点なのです。
日本はどうすべきか?世界のESG逆風から学ぶべきこと
米国や欧州で逆風が吹く今こそ、日本が独自の立ち位置を築く好機かもしれません。
- 個人投資家として: 「ESG」という言葉だけに惑わされず、投資信託の目論見書を読み込み、どのような企業に投資しているのか、その基準は何かをしっかり見極める「賢い目」を持つことが、これまで以上に重要になります。
- 企業として: 目先の逆風やコスト増を理由に、サステナビリティへの取り組みを止めてはいけません。むしろ、こういう時期だからこそ、地道に本質的な取り組みを続ける企業が、次の時代に「本物」として評価され、選ばれる存在となります。私たちFrankPRも、こうした企業の非財務情報の誠実なコミュニケーションを支援しています。
まとめ:ブームの終焉は、本質的な価値が問われる時代の始まり
今回のESGマネー逆流は、脱炭素やSDGsへの取り組みが後退するという単純な話ではありません。むしろ、熱狂的なブームが終わり、「持続可能性(サステナビリティ)が、いかに企業の本源的価値に結びつくのか」という本質が、より冷静に、そして厳しく問われる時代の幕開けを告げています。
この「冬の時代」を乗り越えた先に、より強く、より持続可能な社会と経済が待っている。私たちはそう信じて、この大きな変化を見つめ続ける必要があります。
執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大
参考資料:
- 日本経済新聞「ESGマネー世界で逆流 欧州で初の流出超、「見せかけ」排除で選別も」(2025/6/26)
- モーニングスター「グローバル・サステナブル・ファンド・フロー」(Global Sustainable Fund Flows)
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