クジラからの贈り物が海をきれいにする — 龍涎香が紡ぐ循環型エコノミー

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有限会社アンバーグリスジャパン 代表 吉田恭隆様 × 株式会社FrankPR 代表取締役 松尾真希

「目に見えない世界からの贈り物」。マッコウクジラのお腹から海へと放たれ、30年から100年もの長い時を漂いながら香りに生まれ変わる天然香料、龍涎香(りゅうぜんこう/アンバーグリス)。有限会社アンバーグリスジャパンの吉田恭隆代表は、龍涎香探索とビーチクリーンを結びつけた循環型ビジネスモデルを奄美大島から発信しています。AIとロボットの時代に、なぜ人間は「感性」と向き合う必要があるのか。その取り組みと哲学について、株式会社FrankPR代表取締役の松尾真希がお話を伺いました。

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目次

海から届く「目に見えない世界からの贈り物」

松尾:本日はよろしくお願いいたします。龍涎香はまだ多くの方にとって馴染みのない香料だと思います。改めて、どのようなものなのか教えていただけますか。

吉田:龍涎香はマッコウクジラのお腹の中から出てくる素材なのですが、お腹で香料になるのではなく、海に放たれてからが本番なんです。主要成分はアンブレインという物質で、これ自体は無臭。揮発もしないので、そのままでは香りはしません。

松尾:それがどうやって香りを持つようになるのでしょうか。

吉田:海に放たれたあと、30年から100年という長い時間をかけて、海水と風と太陽の力で炭素結合が少しずつ切れていきます。分子が小さく軽くなり、ようやく揮発するようになる。当たる太陽の強さや内側の成分によって切れ方が変わるので、結果として100種類を超える成分が複雑に混ざり合った、何とも言えない香りに育っていくんです。

松尾:気が遠くなるような時間ですね。

吉田:そうなんです。人の手が届かないところで、海と風と太陽がゆっくりと素材を育てている。龍涎香は「知っている人」が見つけるもの、と古くから言われています。知らない人の目には、ただの漂着物にしか映らない。だからこそ、まずは多くの方に知っていただくことが私たちの第一歩だと思っています。捕鯨で得られたものはグレードが低く香りも良くないので、私たちは使いません。浜辺で長い旅を経てきたものだけを大切にしています。

ビーチクリーンが循環する経済 — 奄美大島からのモデル

松尾:龍涎香を探すこと自体が、結果として海岸の清掃にもつながっていくと伺いました。御社は「ビーチコーミング」を循環型のビジネスへと発展させていらっしゃいますね。

吉田:奄美大島で先日2回イベントを行ったときは、それぞれ40〜50名、合わせて100名近い方にご参加いただきました。龍涎香を探しながら、浜をきれいにしていく時間です。

松尾:奄美の人口で100名というと、人口比では東京の1万5千人規模に匹敵します。地域に深く根ざした動きですね。

吉田:私たちは普段、見つけた方からご連絡をいただいて動いています。ですから奄美のような地域で根を下ろす取り組みは特に大切にしたくて、奄美海洋展示館で常設展示を始めました。龍涎香らしきものを見つけた方が持ち込んで鑑定できる仕組みも整えています。

松尾:そこからさらに、買取ステーションも構想されていると伺いました。

吉田松尾:そこからさらに、買取ステーションも構想されていると伺いました。

吉田:そこは海洋展示館さまが主体となって進められる予定ですので、次回のイベントの際にも詳しくご相談させていただくことになっています。買取で生まれた利益は、海洋展示館の清掃活動費に充てたいと考えています。将来的にはAIロボットによる浜辺清掃と組み合わせて、龍涎香そのものが浜をきれいにするための収益源になるような仕組みを目指したいですね。

松尾:5世代先の子孫に何を残すかという視点で考えると、海をきれいに保つ動機が経済の中に自然に組み込まれている。とてもしなやかな循環の設計だと感じます。

吉田:実際、最近は龍涎香の中にプラスチックのワイヤーが混入したものも見つかっています。海洋ごみが少ないほど良質な香料が育つので、海洋環境を守ることが、そのまま私たちの素材の質に返ってくるんです。

「素材の命を壊さずに生かす」 — 計測器に映らない成分のバランス

松尾:御社の哲学として「素材の命を壊さずに生かす」という言葉を伺っています。具体的には、どのような考え方なのでしょうか。

吉田:いまの香水の世界では、機器で計測できる成分ばかりが重視されがちです。例えばリラックス効果が高いとされる成分を多く取ろうとすると、計測器に映らない小さな成分のバランスが崩れてしまうんです。

松尾:塩の話に近いですね。精製された塩は血圧を上げやすいと言われますが、ミネラルや苦汁を含んだ天然塩は血圧が上がりにくいという研究もあります。

吉田:まさにそうなんです。命というのは目に見えない部分のバランスで成り立っていて、龍涎香はそうした「見えないもの」を可視化してくれる素材だと思っています。だから私たちは、非加熱のフレグランス製法を採用しています。

松尾:現代の香水の主流とは違う製法ですね。

吉田:いまの香水の多くは、加熱蒸留で濃縮した原料を海外のプランテーションから日本へ運び、また希釈して使っています。ジュースに例えるなら濃縮還元ジュースのような作り方です。私たちはフレッシュジュースのように、現地で非加熱のまま抽出する。だから運搬や濃縮のための燃料も使わないし、素材の微細なバランスもそのまま保てる。環境にとっても、使う人にとっても、意味のある選び方だと考えています。

感性の時代へ — 子どもたちと未来世代に手渡したいもの

松尾:教育の領域でも展開を進めていらっしゃいますね。子ども向けのSDGs教材を構想されていると伺いました。

吉田:浜辺で宝探しをする感覚で、海洋環境や地球の生態系を知ってもらう教材を作りたいと考えています。龍涎香はワクワクする宝物であると同時に、海の生態系や、経済活動の背景といった「目に見えない世界」への入口にもなる。子どもたちが感性を働かせながら、未来や生態系のことを自分ごととして考えるきっかけになればと願っています。

松尾:漢方では龍涎香に「五感と意識を開く作用」があると伺いました。

吉田:はい、古くからそう伝わっています。AIやロボットが進展していく中で、これからの人間の役割は、感性を磨いて自分がどう幸せになるかを考えることになっていくと思うんです。クジラの個体数も少しずつ回復していて、龍涎香の漂着が増えてきている。人間に感性が必要とされる時代に、ちょうど海から贈り物が届き始めている、そんな偶然の一致を感じています。

松尾:ハワイの先住民の方々が「5世代先の子孫に何を残すか」を起点に物事を決めていく姿勢から、私も多くを学んできました。吉田さんが話してくださる「目に見えないもの」と、未来世代への想像力は深く響き合っていると感じます。最後に、龍涎香に関心を持つ方々へメッセージをいただけますか。

吉田:10月頃には、新しい香水の発売も予定しています。龍涎香は、海と感性をつなぐ小さな入り口です。一人ひとりが目に見えないものを大切にする選択を積み重ねた先に、海も人もすこやかでいられる未来があると信じています。

松尾:本日は貴重なお話をありがとうございました。香りのように、しずかに、確かに広がっていきますように。

吉田:ありがとうございました。


【企業情報】 有限会社アンバーグリスジャパン 所在地:愛知県名古屋市緑区亀が洞1-701 ノーブルメゾン徳重402 公式サイト:https://agj.co.jp/ 事業内容:龍涎香(アンバーグリス)の鑑定・買取・流通、天然香料を用いた商品開発 主要なSDGs取り組み:

  • 目標14「海の豊かさを守ろう」 — 浜辺漂着の天然香料採取とビーチクリーンを連動させた海洋環境保全
  • 目標12「つくる責任 つかう責任」 — 非加熱フレグランス製法による環境負荷低減
  • 目標11「住み続けられるまちづくりを」 — 奄美大島での買取ステーション構想と地域循環モデル
  • 目標4「質の高い教育をみんなに」 — 子ども向けSDGs教材と海洋教育プログラムの開発
松尾真希プロフィール_300x300

松尾真希

ハワイ州立大学大学院でMDGs(SDGsの前進)を学び、アカデミックな分野でサステナビリティの研究に没頭し、帰国後、革製品ブランド”ラファエロ”を0から立ち上げ、1日で1つの商品を3000個ほど売り上げるなど事業面でも圧倒的な実績を出しつつ実践的な脱炭素経営やサステナブル経営に取り組み、ファッション業界として史上初の「外務省ジャパンSDGsアワード」を受賞した唯一の企業となる(外務大臣賞)。さらに前年には「環境省グッドライフアワード環境と福祉賞」も受賞しており2024年現在で外務省と環境省のSDGsアワードをW受賞した日本で5社のみの一般企業となる。

これらの実績は、夫婦2名の資本金100万円の株式会社FrankPRで取り組んできたことで、資金不足・人材不足でもサステナビリティや脱炭素活動は事業活動と両立できることを実証する。

アカデミックと実践的な経営の両方のサステナビリティの知識を併せ持つ稀有な現役経営者として社会のサステナビリティや脱炭素を支援する発信をしていく。

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