「三方よし」は現代サステナビリティの最適解か──伊藤忠商事 ESGレポート2025を読み解く 

「三方よし」は現代サステナビリティの最適解か──伊藤忠商事 ESGレポート2025を読み解く
目次

はじめに──総合商社が示す「持続可能な資本主義」の形

文:日野(株式会社FrankPR メディア編集長/外務省ジャパンSDGsアワード外務大臣賞受賞)

伊藤忠商事株式会社(本社:東京都港区、代表取締役会長CEO:岡藤正広氏、代表取締役社長COO:石井敬太氏)が2025年9月に公開した「ESGレポート2025」は、同社の企業理念「三方よし」を軸に、環境(E)・社会(S)・ガバナンス(G)の取り組みを252ページにわたって開示した包括的な報告書である。

1858年の創業以来、160年超の歴史を持つ同社が掲げる「三方よし資本主義」は、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)サンドラ・J・サッチャー教授によるケーススタディの対象にも選定されており、「企業の信頼構築」を学術的に証明する事例として国際的な注目を集めている。

気候変動への取り組み──数値で見る脱炭素コミットメント

同社は2019年5月にTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)への賛同を表明。パリ協定および日本のNDC目標に沿い、以下のGHG排出量削減目標を掲げている。

  • 2040年度までにGHG排出量を2018年度比75%削減
  • 2050年度までにネットゼロを実現
  • 2040年度までにGHG排出量を上回る削減貢献量を創出(オフセット・ゼロ)

削減貢献量の実績は、2018年度の100万t-CO2eから2024年度には970万t-CO2eへと約10倍に拡大しており、再生可能エネルギー事業やサーキュラーエコノミー関連事業への投資が着実に成果を上げている。

特筆すべきは、経済産業省が推進する「GXリーグ」への参画や、循環経済パートナーシップ(J4CE)における再生ポリエステル「RENU」を活用した資源循環サービス「PASSTO」の注目事例選定である。これらは総合商社ならではの広範なバリューチェーンを活かした取り組みといえる。

自然資本とTNFD──天然ゴム事業に見る先進性

2022年6月にTNFDフォーラムに参画し、2024年10月にはTNFD Adoptersにも登録した同社は、今回のレポートで初めてLEAP分析の結果を開示した。対象に選定されたのは、自然への依存と影響度が高い天然ゴム事業である。

同社はGPSNR(持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム)にも加盟し、違法伐採と人権問題の防止を目的として生産地情報のトレーサビリティを確保する仕組みを構築していた。この取り組みが、欧州の森林破壊防止規制(EUDR)への先行的対応となり、新たなビジネスモデルの創出にもつながったという事実は、「守り」のリスク管理が「攻め」の事業機会に転換する好例だ。

一般社団法人サステナビリティ経営研究所代表理事の冨田秀実氏も第三者意見で「事業部門が主体的に自然の分野でも取り組みを進めている非常に進んだ事例」と高く評価している。

人的資本の強化──女性役員比率28%の意味

同社は「厳しくも働きがいのある会社」を標榜し、朝型勤務制度の導入やがん治療と仕事の両立支援といった独自の施策を展開してきた。2023年度に導入した女性社員対象の執行役員登用制度により、2025年4月時点で全役員に占める女性比率は28%(総合商社最高水準)に到達。2030年までに30%以上を目指す中長期目標を設定している。

この人的資本戦略は、2026年卒大学生向け就職人気企業ランキングにおいて主要7媒体中6媒体で全業種1位を獲得するという結果にも表れており、ブランド価値と人材獲得力の好循環を生んでいる。

サプライチェーンと人権──是正措置ゼロの継続

国連グローバル・コンパクトに2009年から参加する同社は、国連ビジネスと人権に関する指導原則に基づき、サプライヤーへのサステナビリティ調査を毎年実施している。2024年度は275社に調査を実施し、再確認依頼42件に対し是正依頼件数0件・違反サプライヤー数0社という結果を達成した。

情報開示の充実度

参照するガイドラインは、GRIスタンダードIFRS ISSB S1/S2SSBJ基準CSRD/ESRSISO14001ISO26000SASBなど多岐にわたり、KPMGあずさサステナビリティ株式会社による第三者保証を取得している点も信頼性を担保する重要な要素だ。S&Pグローバル社によるサステナビリティ評価では業界最高評価を獲得しており、グローバルな投資家からの信認も厚い。

編集長所感

伊藤忠商事のESGレポート2025は、創業者伊藤忠兵衛が掲げた「三方よし」の理念を、SDGsTCFDTNFDGXリーグといった現代のフレームワークと接続させ、「理念と実務の一貫性」を高い水準で体現している。8つのカンパニーが各々サステナビリティアクションプランを策定し、ボトムアップで推進する体制は、巨大組織におけるサステナビリティ経営の実装モデルとして参考になる。

2024年度連結純利益8,803億円(過去最高益)を達成しながらも、環境・社会課題への中長期投資を加速させる同社の姿勢は、「利益」と「社会的責任」が二項対立ではないことを証明している。

株式会社FrankPRは、外務省ジャパンSDGsアワード外務大臣賞の受賞企業として、今後もサステナビリティに取り組む企業の情報発信を支援してまいります。


本記事は、伊藤忠商事株式会社が公開する「ESGレポート2025」を基に株式会社FrankPRが独自に分析・評価したものです。

出典:伊藤忠商事株式会社「ESGレポート2025」(2025年9月発行)

日野広大

編集長日野

日野広大(ひの こうだい)
「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長。ジャパンSDGsアワード外務大臣賞を受賞した株式会社FrankPRのサステナビリティコンサルタント、気候変動コミュニケーター。
専門は脱炭素経営、サーキュラーエコノミー、SDGsの企業経営への統合。学生時代のボランティアを機に環境問題に目覚め、現在は編集長として、科学的根拠と実用性を両立した情報発信を行う。
複雑なテーマを、データと自身の経験に基づいた身近な解説で「初めて理解できた」と読者から高い評価を得ている。単なる問題提起に留まらず、読者が「今日からできるアクション」を見つけられる、具体的で希望の持てる解決策を伝えることを信条とする。

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