酷暑時代の「真夏の働き方改革」とは?SDGs視点で企業の生産性向上と気候変動適応を解説

脱炭素とSDGsの知恵袋、編集長の日野広大です。私たちのメディアは、ジャパンSDGsアワードで外務大臣賞を受賞したFrankPRが運営しており、その知見を基にSDGsに関する信頼性の高い情報を発信しています。

「暑すぎて仕事のやる気がでない…」多くの人がそう感じる日本の夏。もはや単なる季節的な現象ではなく、企業の生産性や労働者の健康を脅かす深刻な経営課題となっています。この課題に対し、先進的な企業が「真夏の働き方改革」を進めているというニュースを、今回はSDGsと気候変動の専門家の視点から深掘りします。

この記事では、以下の点について徹底的に解説していきます。

  • 酷暑が奪う、世界の労働時間という衝撃的な事実
  • 企業の先進事例:「サマータイム」や「週休3日制」はなぜ成功するのか
  • SDGsの視点:働き方改革がなぜ「気候変動対策」になるのか
  • 明日からできること:持続可能な働き方を実現するためのヒント
目次

「暑すぎて仕事にならない」は世界共通の課題

日本の夏の酷暑化は、気象庁のデータからも明らかです。2025年7月の月平均気温は平年を2.89度も上回り、観測史上最高を記録しました。これは3年連続の更新であり、異常な暑さが常態化していることを示しています。

この酷暑は、私たちの「やる気」を奪うだけではありません。経済全体に深刻なダメージを与えています。

失われる5120億時間の労働時間:ランセット報告の衝撃

国際医学誌『ランセット』が主導する研究プロジェクトによると、2023年には全世界で5120億時間もの労働時間が、暑さによって失われたと報告されています。これは、地球温暖化がもたらす「静かなる経済危機」と言えるでしょう。

この数字を分かりやすく例えるなら、全世界の労働者が年間で丸一日以上、暑さのせいで働けなかった計算になります。これは気候変動が私たちの仕事に直接的な影響を及ぼしている動かぬ証拠です。

日本も例外ではない経済的損失

日本もこの問題と無縁ではありません。同報告によれば、日本では22億時間の労働時間が失われたと推定されています。これは90年代と比較して約50%も増加しており、酷暑の深刻化を物語っています。

失われた労働時間による潜在的な収入損失は、日本だけで約5.5兆円にも上るとのこと。生産年齢人口の減少という課題を抱える日本にとって、これは看過できない経済的打撃です。

企業の挑戦:「ピンチ」を「チャンス」に変える働き方改革の具体例

こうした深刻な状況に対し、一部の日本企業は「暑いから仕方ない」と諦めるのではなく、働き方そのものを見直すことで、このピンチをチャンスに変えようとしています。

ファミリーマートの「サマータイム」

ファミリーマートでは、夏の期間、始業と終業を1時間早める「サマータイム」を導入しています。これにより、比較的涼しい早朝から効率的に働き、満員電車の暑さや体力の消耗を避ける狙いがあります。

注目すべきは、その副次的な効果です。社員アンケートでは、残業時間が「減った」という回答が「増えた」を上回りました。「明るいうちに仕事を終えて余暇を楽しもう」という意識が、結果的に生産性向上につながっているのです。

サタケの「夏季週休3日制」という革命

精米機メーカーのサタケでは、さらに踏み込み、夏期限定で賃金を据え置いたまま週休3日制を導入しています。「夏は暑すぎて仕事にならない」という役員の一言がきっかけでした。

当初懸念された「業務の停滞」は杞憂に終わりました。むしろ、「休むためにどう仕事を効率化するか」という意識が全社に広がり、無駄な業務の洗い出しや改善が進んだのです。その結果、月平均残業時間は10年前の約20時間から6〜7時間へと劇的に減少しました。これは、働き方改革が生産性向上に直結することを示す、画期的な事例と言えるでしょう。

SDGsの視点から読み解く「真夏の働き方改革」の重要性

これらの取り組みは、単なる福利厚生や暑さ対策にとどまりません。SDGsの視点から見ると、複数の目標達成に貢献する極めて戦略的なアクションなのです。

目標8「働きがい」と目標3「健康」の同時達成

酷暑の中での労働は、熱中症のリスクを高め、心身の健康を損ないます(目標3)。政府もこの問題を重視し、2025年6月には労働安全衛生規則を改正し、企業に熱中症対策を義務付けました。

サマータイムや週休3日制は、労働者の健康を守ると同時に、残業時間の削減や生産性向上を通じて「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」を実現します(目標8)。従業員のウェルビーイング(心身の幸福)を重視する「人的資本経営」の観点からも、非常に有効なアプローチです。

目標13「気候変動対策」としての“適応策”

最も重要な点は、これらの働き方改革がSDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」に貢献する「適応策」であるという視点です。

気候変動対策には、CO2排出を削減する「緩和策」と、すでに起こりつつある気候変動の影響に備える「適応策」の2つがあります。真夏の働き方改革は、温暖化によって常態化した酷暑という環境下で、いかに社会経済活動を維持し、人々の健康を守るか、という重要な適応策なのです。

弊社FrankPRが企業のTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)対応を支援する中でも、こうした酷暑などの「物理的リスク」への適応戦略の重要性は増すばかりです。

あなたの会社でもできる?働き方改革を進めるためのヒント

「週休3日なんて、うちの会社では無理だ…」そう思うかもしれません。しかし、重要なのは形だけを真似ることではなく、その本質を理解することです。

  1. 現状を可視化する: まずは、夏の暑さが従業員の生産性や心身の健康にどのような影響を与えているか、アンケートなどで実態を把握しましょう。
  2. 小さく試す: 全社一斉が難しければ、特定の部署や期間でトライアル導入を検討します。例えば、特定の金曜日を「会議なしデー」や「年休取得奨励日」に設定する(日本製鉄の例)だけでも効果はあります。
  3. 目的を共有する: なぜ働き方を変えるのか。「単に楽をするため」ではなく、「健康を守り、生産性を上げて、持続可能な働き方を実現するため」という目的を経営層と従業員が共有することが成功のカギです。

まとめ:気候変動時代を乗り越える、新しい働き方へ

酷暑による生産性の低下は、もはや個人の「やる気」の問題ではなく、気候変動が引き起こした社会全体の構造的な課題です。

今回ご紹介した企業の取り組みは、この課題に対し、働き方を変えることで「適応」し、さらには生産性向上という「チャンス」に変えた素晴らしい事例です。これは、気候変動という大きなピンチを乗り越えるための、重要なヒントを示しています。

地球温暖化の進行を止める「緩和策」と並行して、目の前にある気候変動の影響に賢く「適応」していく。これからの企業経営には、その両輪が不可欠です。


執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大
参考資料:日本経済新聞「酷暑が奪うやる気と時間 「真夏の働き方改革」広がる」

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