こんにちは。「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長の日野広大です。私たちのメディアは、SDGsへの貢献が評価され、政府SDGs推進本部から「ジャパンSDGsアワード」で外務大臣賞をいただいたFrankPRが運営しています。
私たちが愛する広島のプリプリなカキ。その美味しさを支える養殖の現場が、実は深刻な海洋プラスチック問題と密接に繋がっていることをご存じでしょうか。今回は、その課題の根本にIT技術でメスを入れる、日本が世界に誇るべき画期的な取り組み「瀬戸内オーシャンズX」を、SDGsの視点から徹底解説します。
この記事でわかること
- カキ養殖が海洋ごみを生む「不都合な真実」とは
- ごみを「拾う」から「出さない」へ。発想の転換が生んだ新技術
- この取り組みがSDGs達成のモデルケースとなる3つの理由
- 私たち消費者にできる、豊かな海を守るためのアクション
「白いごみ」の正体とは?瀬戸内海を脅かすカキ養殖の課題
広島のカキ養殖に欠かせないのが、カキを吊るした「いかだ」を浮かせるための、発泡スチロール製の巨大な浮き具「フロート」です。広島県では年間30万個以上も使用されていますが、ここに大きな問題が潜んでいました。
参照ニュース: 広島のカキ養殖場で始動!ITも活用した新型の浮き具で挑む海洋プラごみ削減【瀬戸内オーシャンズX】 (SOCIAL INNOVATION NEWS)
従来のフロートは紫外線や波の影響で劣化しやすく、寿命は約3年。漁の最中に船と衝突するなどして破損し、砕けた破片が「白いごみ」として海に流出していました。これらのプラスチックごみは、やがて微細なマイクロプラスチックとなり、海の生態系を汚染する深刻な原因となっていたのです。
ごみを出さない仕組みへ!「瀬戸内オーシャンズX」の画期的な一手
この問題に対し、日本財団と瀬戸内4県(広島・岡山・香川・愛媛)が連携して推進するプロジェクト「瀬戸内オーシャンズX」が、まさに”コロンブスの卵”的発想で挑んでいます。それは、ごみを「拾う(対症療法)」だけでなく、そもそも「ごみを出さない(発生源対策)」仕組みを作ることです。
その切り札が、2つの新技術です。
1. 寿命2倍以上!高強度フロートで「リデュース」を実現
新たに開発されたのは、従来品より密度と強度を格段に高めた強化フロート。寿命は5〜8年へと大幅に延長されました。壊れにくく、長持ちする製品を使うことで、ごみになるフロートの数そのものを減らす(リデュース)。これは、持続可能な生産と消費を目指すSDGs 12「つくる責任 つかう責任」の考え方を体現しています。
2. ITでごみを追跡!ICタグがもたらす「責任の見える化」
さらに画期的なのが、ICタグの活用です。個々のフロートにICタグを埋め込み、スマートフォンなどで読み取ることで、「誰が」「いつから」使っているかを正確に管理できます。これにより、漁業者は適切なタイミングでフロートを交換でき、老朽化による流出を未然に防げます。
これは、水産業という伝統的な産業にITを持ち込む「漁業DX(デジタルトランスフォーメーション)」であり、所有者責任を明確にし、不法投棄を防ぐ効果も期待できる、まさに一石二鳥のイノベーションです。
なぜこの取り組みが重要なのか?SDGs視点で読み解く3つのポイント
この広島の挑戦は、単なる一地域の環境問題対策にとどまりません。SDGs達成に向けた、世界的なモデルケースとなりうる3つの重要なポイントを含んでいます。
ポイント1:目標14の達成に不可欠な「発生源対策」
SDGs 14「海の豊かさを守ろう」を達成するには、海岸清掃だけでなく、ごみの蛇口を閉める「発生源対策」が不可欠です。このプロジェクトは、海洋プラスチック問題の根本原因に真正面から取り組む、最も効果的なアプローチの一つです。
ポイント2:目標12を体現する「サーキュラーエコノミー」への移行
「作って、使って、捨てる」という一方通行の経済(リニアエコノミー)から、「作って、長く使い、適切に管理・再生する」循環型の経済(サーキュラーエコノミー)への移行は、世界的な潮流です。長寿命化とITによる管理を組み合わせたこの取り組みは、その完璧な縮図と言えるでしょう。
ポイント3:目標17のお手本となる「セクター横断パートナーシップ」
このプロジェクトは、日本財団(財団)、4つの県(行政)、そして広島県漁業協同組合連合会(生産者)という、異なる立場の人々が手を取り合って実現しています。こうしたセクターを超えた協力こそ、複雑な社会課題を解決する鍵であり、SDGs 17「パートナーシップで目標を達成しよう」が目指す姿そのものです。
広島から世界へ。このモデルが示す持続可能な水産業の未来
現在、1,000個の新型フロートが広島の海に設置され、1年間の実証実験がスタートしました。この広島モデルが成功すれば、同じくカキやホタテなどの養殖が盛んな国内の他地域、さらには世界中の国々へと展開される可能性を秘めています。
私たちFrankPRは、企業のサステナビリティ活動を支援する中で、こうした「課題の根本に挑む技術」と「多様な人々を巻き込むパートナーシップ」の融合が、社会を前に進める原動力になると確信しています。
まとめ:美味しいカキと豊かな海を未来へ繋ぐために
広島の海で始まったこの静かな革命は、私たちに大切なことを教えてくれます。それは、環境問題の解決策は、日々の経済活動の中にこそあるということです。
次にあなたが広島のカキを口にする時、その美味しさの裏側で、豊かな海を未来へ繋ごうと奮闘する人々の姿を、少しだけ思い出してみてください。環境に配慮した生産者を応援する「エシカル消費」は、私たち一人ひとりが今すぐ参加できる、最もパワフルなSDGsアクションの一つなのです。
執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大
参考資料: SOCIAL INNOVATION NEWS、瀬戸内オーシャンズX 公式サイト
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