こんにちは、「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長の日野広大です。
先日、衝撃的なニュースが飛び込んできました。アメリカで専門技術者として働くために必要な「H-1Bビザ」の申請手数料が、なんと10万ドル(約1480万円)に引き上げられるというのです。夢を追いかけてアメリカで学び、キャリアを築こうとしていた留学生や若い技術者たちが、突如として巨大な壁に直面しています。「なんだか遠い国の話だな」と感じるかもしれません。でも、これは単なる経済ニュースではなく、SDGs(持続可能な開発目標)、特に「人や国の不平等をなくす」という目標に深く関わる、私たちの未来にとっても大切な問題なのです。今日はこのニュースを、SDGsという羅針盤を使って読み解いていきましょう。
こんな人におすすめです
- 海外のニュースとSDGsのつながりを知りたい方
- グローバルなキャリアや留学に関心のある学生・社会人の方
- 企業の採用担当者や、多様な組織づくりに関心のある方
ニュースの概要:何が起きているのか?
まずは、今回のニュースのポイントを簡単におさらいしましょう。
- 対象ビザ: H-1Bビザ。IT技術者や科学者など、専門的なスキルを持つ人がアメリカで働くために取得するものです。
- 変更点: 申請手数料が、従来の数百ドルから一気に10万ドル(約1480万円)に引き上げられます。
- 影響を受ける人: これからアメリカでの就職を目指す外国人留学生や専門家、そして彼らを採用しようとする企業(特にテック企業やスタートアップ、大学、病院など)。
記事によると、サンフランシスコで学ぶインド出身の大学院生サティシュさんは、米国でのキャリア形成に大きな不安を抱いています。彼の友人の中には、すでに母国へ帰ることを決めた人もいるそうです。
これは、個人の夢が経済的な理由で断たれてしまうだけでなく、世界中から才能ある人材を集めることでイノベーションを生み出してきたアメリカ社会、ひいては世界全体にとっても大きな損失につながる可能性があります。
なぜこれがSDGsにとって重要なのか?2つの視点
この問題をSDGsの視点で見ると、主に2つの大きなゴールへの逆行であることがわかります。
1. 機会を奪う「経済的な壁」- SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」への挑戦
SDGsの目標10「人や国の不平等をなくそう」は、誰もがその出自や経済状況に関わらず、平等な機会を得られる社会を目指すものです。
今回の手数料引き上げは、まさにこの理念に反します。裕福な家庭の出身者や、高額な費用を負担できる巨大企業にしかチャンスが与えられず、才能や努力だけでは越えられない「経済的な壁」を作ってしまいます。
弁護士のカリン・ウォルマン氏が指摘するように、この措置は「資金に余裕のある大企業の上級専門職人材だけに限定する」ことが目的かもしれません。しかし、それでは新しいアイデアを持つスタートアップや、地域医療を支える病院、未来を担う研究者を育てる大学から、多様な人材が失われてしまいます。
社会の活力は、多様な背景を持つ人々が集まることで生まれます。この ダイバーシティ&インクルージョン の考え方は、持続可能な社会の土台であり、今回の措置はこの土台を揺るがしかねないのです。
2. 世界の成長を阻む「才能の停滞」- SDGs目標8「働きがいも経済成長も」への逆行
SDGsの目標8「働きがいも経済成長も」は、誰もが人間らしい仕事に就き、その能力を最大限に発揮することで、持続可能な経済成長を実現することを目指しています。
GoogleやAppleのような巨大テック企業は、世界中から集まった優秀なエンジニアたちの力で成長してきました。彼らの多くがH-1Bビザを利用しています。今回の措置によって、こうした企業でさえも人材確保が難しくなり、イノベーションのスピードが鈍化する恐れがあります。
これは、単に一国の経済問題にとどまりません。新しい技術やサービスの開発が遅れることは、気候変動対策や医療の進歩など、世界が抱える課題解決の遅れにも繋がります。世界中の人々が能力を発揮できる機会を確保することは、地球全体の持続可能な発展のために不可欠なのです。
私たちにできること:知る、考える、対話する
この大きな問題に対して、私たち一人ひとりに何ができるのでしょうか。
個人レベルのアクション
- 関心を持ち続ける: まずは、このニュースの背景にある「不平等」の問題に関心を持つことが第一歩です。SNSでの発言を恐れている人がいるという事実に、少しだけ思いを馳せてみてください。
- 自分の周りを見つめる: あなたの職場や学校に、海外から来た仲間はいませんか?彼らがどのような背景を持ち、どんな思いで日本に来ているのか、少し話を聞いてみるのも良いかもしれません。多様性がもたらす豊かさを実感できるはずです。
- 学ぶ: SDGsがなぜ「不平等の是正」を重要視しているのか、関連記事を読んで理解を深めてみましょう。→ 【用語解説】SDGs「10-3. 機会均等の確保、成果の不平等の是正」の進化
組織・企業レベルのアクション
- 公平な採用基準の徹底: 企業の採用担当者であれば、国籍やビザの種類で判断するのではなく、個人の能力と意欲を正当に評価する採用方針を改めて確認・徹底することが重要です。
- 企業の社会的責任(CSR)を考える: 海外の若者への教育支援や、国内の外国人留学生との交流など、企業としてできる国際貢献の形を考えてみるのも一つのアクションです。
希望の兆し:世界の連帯が未来を変える
暗いニュースに聞こえますが、希望もあります。
移民専門の弁護士がこの措置を「違法」だと声を上げているように、法的なプロセスを通じて見直される可能性があります。また、世界中の企業や大学、そして市民社会が連帯し、異議を唱えることで、政治的な判断が変わることもあり得ます。
かつて私がパラオでサンゴ礁の保全活動に参加した時、多様なサンゴが互いに支え合って美しい生態系を作っているのを見ました。社会も同じで、多様な人々がいてこそ、より強く、より豊かになれるのだと信じています。
この一件が、世界中の人々が「機会の平等とは何か」を改めて考え、より公正な社会を築くための議論のきっかけになることを願ってやみません。
まとめ:今日からできる小さな一歩
今回は、米国のH-1Bビザ手数料引き上げのニュースを、SDGsの視点から解説しました。
- 高額な手数料は、SDGs目標10「人や国の不平等をなくそう」に反する「経済的な壁」を生む。
- 多様な人材の流入を妨げることは、SDGs目標8「働きがいも経済成長も」を損ない、世界のイノベーションを停滞させる恐れがある。
この問題は、遠い国の話ではありません。私たちの社会のあり方、そして未来の豊かさにつながる重要なテーマです。まずはこの問題を知り、自分に何ができるかを少しだけ考えてみること。それが、持続可能な未来への確かな一歩となるはずです。
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