SDGsコラム
こんにちは、「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長の日野広大です。
ユニクロが、かつて苦戦した北米市場で今、驚異的な躍進を遂げているというニュースが話題です。手頃で高品質なベーシックウェアが米国の若者の心を掴み、2022年には北米事業が黒字化。ファーストリテイリング社は過去最高の純利益を発表する など、まさに絶好調です。
しかし、創業者の柳井正会長は、この成功に楽観一辺倒ではありません。
むしろ、米国の「孤立主義への転換」や保護主義的な政策に対し、強い懸念を表明しています。これは単なる一経営者の政治的意見ではなく、【用語解説】SDGsとは?17のゴールと169のターゲットを徹底解説! が目指す「持続可能な未来」の根幹に関わる、非常に重要なメッセージなのです。
こんな人におすすめです
- ユニクロがアメリカでなぜ人気なのか知りたい方
- グローバル企業のトップがなぜ政治的な懸念を表明するのか、その背景を知りたい方
- 「自由貿易」や「サプライチェーン」がSDGsとどう関係するのか学びたい方
- ファッションと社会課題のつながりに関心がある方
絶好調の裏で、なぜ柳井会長は警鐘を鳴らすのか?
今回のニュースのポイントは、この「成功」と「懸念」のコントラストにあります。
ユニクロの柳井正が米紙に語る「いまの米国のやり方は許されるのか」
1. 北米市場での「大成功」
柳井会長は、戦後の日本で米国文化に触れて育ち、GAPのようなカジュアルウェアから着想を得たほど、米国市場に強い愛着を持っています。
2005年の初出店以来、長らく苦戦しましたが、2022年に遂に黒字化。高品質で手頃な服が若者を中心に支持され、今や米国は同社の成長戦略の柱となりました。まさに「集大成ともいえる目標」 が実を結び始めたのです。
2. 「健全な米国に戻って」という強い懸念
しかし、その一方で柳井会長は米国の現状に強い懸念を示しています。
特に、ドナルド・トランプ大統領(当時・あるいは次期)の保護主義的な政策や高すぎる関税です。ユニクロのビジネスモデルは、中国や東南アジアの工場ネットワーク、すなわちグローバル・サプライチェーンに依存しています。
もし米国が「好き勝手に」高関税をかければ、このサプライチェーンが脅かされます。「世界貿易を分断し、世界の発展にとって間違いなくマイナス」 になると、柳井会長は強く警鐘を鳴らしています。
なぜこれがSDGsにとって重要なのか?
この柳井会長の懸念は、SDGsの核心的な目標、特に「パートナーシップ」の重要性を浮き彫りにします。
1. SDGs 17「パートナーシップ」への真っ向からの挑戦
[Image: SDGs目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」のアイコン]
SDGsの最後の目標17は「パートナーシップで目標を達成しよう」です。この中には、「普遍的で公正な多角的貿易体制を推進する」(ターゲット17.10)ことが明記されています。
柳井会長が懸念する「孤立主義」や「保護主義」は、まさにこのグローバルなパートナーシップと自由な貿易体制を破壊する動きです。一国が自国の都合だけで高関税をかければ、世界中で築き上げてきた協力関係が「分断」されてしまいます。
2. SDGs 8 & 12:持続可能なサプライチェーンの危機
ユニクロの服が「高品質で手頃な価格」で提供できるのは、中国や東南アジアの工場との綿密なネットワーク、つまり【用語解説】サステナブル調達とは?企業の持続可能な調達への取り組み が機能しているからです。
このサプライチェーンは、現地の雇用を生み出し(SDGs 8「働きがいも経済成長も」)、【用語解説】サステナブルファッション入門:概要からSDGsゴールまで徹底解説 の基盤(SDGs 12「つくる責任 つかう責任」)となっています。
しかし、政治的な理由で高関税がかけられれば、この仕組み全体が不安定になります。それは、単に服の値段が上がること(=消費者のマイナス)だけでなく、サプライチェーンを担う国々の経済成長や雇用(=生産国のマイナス)をも脅かすことにつながるのです。
日野広大の視点:企業トップが「声を上げる」重要性
[Image: マイクを持って発言する企業のCEOのイラスト]
私が今回のニュースで最も注目したのは、柳井会長が日本の経営者としては稀有なほど、公然と「異議を唱えたい」と声を上げたことです。
SDGsの達成は、政府やNPOだけのものではありません。特にユニクロのようなグローバル企業は、経済活動を通じて世界に大きな影響を与えています。
だからこそ、自社のビジネスの土台である「自由で公正な貿易ルール」が脅かされた時、企業が「それは持続可能な世界の発展にとってマイナスだ」 と声を上げることは、非常に重要な【用語解説】CSR(企業の社会的責任)とは?SDGsとの関係性や企業への影響を解説(企業の社会的責任)の一つです。
柳井会長の「以前の健全な米国に戻ってもらいたい」 という言葉は、単なるノスタルジーではなく、「SDGs 17」のパートナーシップを再構築してほしいという、切実な訴えなのです。
私たちにできること:服の裏側にある「つながり」を想像する
このニュースは、私たち消費者にも大切な視点をくれます。
- 服の「グローバル性」を意識する:
私たちが何気なく着ているこの一枚の服が、どれだけ多くの国の人々の労働によって支えられているか。その「つながり」を想像してみましょう。 - 「分断」のコストに関心を持つ:
「保護主義」や「高関税」といったニュースが、遠い政治の話ではなく、私たちの服の価格や、服を作ってくれる人々の生活に直結している問題だと知ること。
知ることが第一歩です。ユニクロの成功と柳井会長の警告は、私たちが「持続可能なパートナーシップ」の上で生活していることを、改めて教えてくれています。
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