高島屋の「ESG自社株買い」とは?株主還元と社会貢献を両立する新潮流をSDGs視点で解説

脱炭素とSDGsの知恵袋、編集長の日野広大です。私たちのメディアは、ジャパンSDGsアワードで外務大臣賞を受賞したFrankPRが運営しており、その知見を基にSDGsに関する信頼性の高い情報を発信しています。

今回は、金融の世界とサステナビリティが融合した、非常に興味深いニュースを解説します。大手百貨店の高島屋が、日本ではまだ3社目となる「ESG自社株買い」を実施しました。これは、株主への還元策である自社株買いと、社会課題の解決を結びつける画期的な取り組みです。

この記事では、この新しい財務戦略がなぜ今注目されているのか、その仕組みからSDGsとの関連性まで、専門家の視点で深掘りしていきます。

  • ESG自社株買いの仕組み:専門用語をわかりやすく解説
  • 注目の背景:「株主偏重」批判への企業の答え
  • SDGsの視点:高島屋の選択が示す「事業と一体のサステナビリティ」
  • 今後の課題:真の企業価値向上への挑戦

目次

ニュースの核心:高島屋が踏み切った「ESG自社株買い」

高島屋は、2025年7月から12月末にかけて、150億円規模の「ESG自己株式取得(ESG自社株買い)」を実施しています。同社による実施は、2024年11月から2025年2月にかけて行ったものに続き、これが2回目となります。

この取り組みの目的は、株価対策と同時に、深刻化する社会課題である中小企業の「事業承継」を支援することです。高島屋は、前回のESG自社株買いで生まれた資金も活用し、事業承継支援ファンドへ2億円を拠出しました。


「ESG自社株買い」の仕組みとは?専門家がわかりやすく解説

「ESG自社株買い」と聞くと、少し難しく感じるかもしれません。しかし、仕組みは意外とシンプルです。

一言で言うと、「自社株を予定より安く買えた場合に生まれた『おつり』を、ESG関連の活動に寄付・投資する」というものです。

例えば、ある会社が「150億円で自社の株を買おう」と計画したとします。しかし、実際の買い付け期間中の株価が想定より安かったため、148億円で目標の株数を買うことができました。このとき生まれた差額の2億円を、環境保護団体への寄付や、社会課題を解決する事業への投資などに充てるのがESG自社株買いです。

これにより、企業は株主価値を高めるための自社株買いを行いつつ、同時に社会的な価値も創出することができるのです。


なぜ今「ESG自社株買い」が注目されるのか?

この新しい手法が注目される背景には、現代の資本主義が直面する大きな課題があります。

「株主偏重」批判をかわす新たな一手

近年、東京証券取引所からの要請もあり、日本企業の間で自社株買いが急増しています。2024年度には過去最高の約17兆円に達しました。これは株価を引き上げてPBR(株価純資産倍率)を改善する有効な手段ですが、一方で「利益を株主還元にばかり使い、従業員の賃上げや未来への投資を怠っている」という「株主偏重」の批判も高まっています。

2025年6月には、石破首相も「企業の利益が株主への還元だけで終わってはいけない」と述べ、従業員や地域への還元の重要性を強調しました。ESG自社株買いは、こうした批判に対応し、株主だけでなく、より広いステークホルダー(利害関係者)に利益を還元する手法として期待されています。

欧州で先行するステークホルダー還元の考え方

この動きは、ESG先進地域である欧州で2020年頃から活発化しています。

  • フランスの文具メーカー「ビック」は、この仕組みで得た資金を教育機会の均等化支援などに充て、「ステークホルダーに対する真の長期的価値創造」と位置づけています。
  • イタリアのインフラ会社「テルナ」は、自社のサステナビリティ目標と連動させたESG自社株買いを継続的に実施しています。

SDGsの視点:高島屋の選択が示す「事業と一体のサステナビリティ」

高島屋が拠出先に「中小企業の事業承継支援」を選んだことは、SDGsの観点から非常に示唆に富んでいます。これは単なる慈善活動(フィランソロピー)ではなく、自社の事業と深く結びついた戦略的な投資だからです。

高島屋の取引先には、伝統工芸品や食品などを手掛ける多くの中小企業が含まれており、その多くが後継者不足という課題に直面しています。これらの企業が廃業すれば、高島屋自身の品揃えや魅力、つまりサプライチェーンが損なわれてしまいます。

この投資は、以下のSDGs目標に複合的に貢献します。

  • 目標8「働きがいも経済成長も」:中小企業の存続を支援し、雇用と地域経済を守る。
  • 目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」:伝統技術を持つ企業の存続を支え、産業の多様性を維持する。
  • 目標11「住み続けられるまちづくりを」:地域の伝統文化や産業遺産を守る。

このように、自社の事業基盤を強化しつつ、社会課題の解決にも貢献する。これこそが、弊社FrankPRでも重視している「事業と一体化したサステナビリティ経営」の理想的な姿です。


課題と展望:真の企業価値向上への挑戦

一方で、課題もあります。高島屋の株価は、この発表後も大きな変化を見せておらず、日本の投資家における認知度の低さがうかがえます。

ESG自社株買いが、単なる「イメージアップ戦略」や一過性の寄付で終わらないためには、拠出した資金がどのように事業成長に結びつき、企業価値を向上させたかを、投資家や社会に対して明確に示し続ける「継続する力」が重要です。

事業承継を支援した企業から新たなヒット商品が生まれ、百貨店の売上向上に繋がる。そのような成功事例を創出できるかが、この取り組みの真価を左右するでしょう。

まとめ:新しい資本主義への一歩

高島屋の「ESG自社株買い」は、株主至上主義から、より広いステークホルダー全体の利益を考える「ステークホルダー資本主義」への移行を象徴する、日本における重要な一歩です。

この動きが他の企業にも広がり、財務戦略とサステナビリティ戦略がより深く融合していくことで、日本企業の価値創造は新たなステージに進むことができるでしょう。


執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大
参考資料:日経ESG「高島屋が「ESG自社株買い」」

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