プラごみアートに震災漂流物?ロンドンの作品が問いかけること

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はじめに:ロンドンの巨大クジラアート、その材料は?

イギリス・ロンドンの再開発地区「カナリーワーフ」に、巨大なシロナガスクジラのアート作品が登場しました。水路から飛び出すように設置された高さ11メートルの迫力ある作品は、多くの人の注目を集めました。しかし、その制作に使われた材料の一部が、大きな議論を呼ぶことになります。

この作品は、深刻化する「海洋プラスチックごみ」の問題に警鐘を鳴らす目的で作られました。しかし、その材料として使われたプラスチックの中に、日本の東日本大震災の津波で流された物品が含まれていたことが分かったのです。

作品の意図:海にあふれるプラスチックごみへの警鐘

この作品は、アメリカのアーティストとハワイの野生動物保護団体が協力して制作しました。材料には、ハワイの海岸で集められたという5トンもの青と白のプラスチックが使われています。

作品の近くにある説明文には、「都市で生み出されるプラごみが、どれほど海に流出しているかを印象づけるために制作された」と書かれていました。海を汚染し、生き物たちを脅かすプラスチックごみの問題を、アートを通じて多くの人に考えてもらうことが、本来の目的だったのです。

発覚した事実:「ごみ」の中にあった震災の記憶

しかし、作品に使われている青いプラスチック製のかごなどをよく見ると、そこには日本語で「石巻魚市場」「JFたろう」「気仙沼魚市場」といった、東日本大震災で大きな被害を受けた地域の名前が記されていました。記事によると、少なくとも11点の被災地の物品が確認されたとのことです。

これらは、2011年の震災の津波によって海に流され、長い年月をかけて太平洋を渡り、ハワイの海岸に流れ着いたものと考えられます。

なぜ?:津波による漂流物がハワイへ

東日本大震災では、津波によって約500万トンもの災害廃棄物が海に流出したと推計されています(環境省)。その多くは海底に沈みましたが、約150万トンは海面を漂流したと考えられています。

国際太平洋研究センター(IPRC)などのシミュレーションによると、これらの漂流物は太平洋を横断し、震災のあった年の末には北米大陸に到達。その後、一部は海流に乗ってハワイなどにも流れ着いたとされています。実際に、震災後、ハワイや北米では、日本のものと思われるサッカーボールや漁船などが見つかったという報告が多数ありました。

今回アート作品に使われた漁具なども、そうした経緯でハワイに漂着した可能性が高いのです。

巻き起こった議論:「ごみ」ではない、悲しい…

この事実がSNSなどを通じて広まると、作品の展示を発表したカナリーワーフの公式SNSには、英語や日本語で様々なコメントが寄せられました。

寄せられた声(一部)

  • 「被災地の名前が書かれているものが『ごみ』として扱われているのは悲しい」
  • 「故意に捨てられたわけではないものもあると知ってほしい」
  • 「津波で大切なものを失った人々の気持ちを考えてほしい」

海洋ごみ問題を訴えるという作品の意図は理解できるものの、震災によって意図せず流されてしまった被災者の生活道具や漁具が、単なる「プラスチックごみ」として展示されていることへの違和感や悲しみを訴える声が多く上がったのです。

主催者側の対応:釈明、謝罪、そして修正へ

こうした声を受け、展示の主催者であるカナリーワーフはコメントを発表しました。

カナリーワーフのコメント(要旨)

  • (複数の物品が)津波被害により東北地方から流出したものだと判明した。
  • 全ての物品を「ごみ」として不快な思いをさせたことをおわびする。

また、制作したアーティストも「海にある全てのプラスチックが意図的、あるいはごみとして捨てられたものではない」と釈明したと伝えられています。作品近くの説明文も、今後修正されるとのことです。

この作品が問いかけること

今回の出来事は、私たちにいくつかの重要な問いを投げかけています。

  1. 海洋ごみの複雑な現実: 海にあるプラスチックは、私たちが無責任に捨てたものだけではありません。今回のように、災害によって意図せず流されてしまうものも含まれています。海洋ごみ問題の解決には、様々な背景を理解する必要があります。
  2. 災害の記憶と向き合うこと: 震災から年月が経っても、被災した人々にとって、失われた物は単なる「モノ」ではなく、生活や記憶の一部です。それらが予期せぬ形で現れたとき、どのように向き合うべきか、社会全体で考える必要があります。
  3. アート表現と配慮: 社会問題を訴えるアートは非常に重要ですが、その表現方法や材料の背景について、十分な調査と配慮が必要であることを示唆しています。特に、人々の深い悲しみや記憶に関わるものを扱う際には、より慎重さが求められます。

まとめ:一つの作品から考える、海と私たちの記憶

ロンドンのクジラのアート作品は、図らずも、海洋プラスチックごみという地球規模の環境問題と、東日本大震災という未曽有の災害の記憶を結びつけることになりました。

この出来事をきっかけに、私たちは海の豊かさを守ること(SDGs目標14)の重要性を再認識するとともに、様々な背景を持つ「ごみ」の問題や、災害の記憶にどう寄り添っていくかについて、改めて考える必要があるのかもしれません。

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