【専門家解説】令和7年版環境白書を読むカギは「気候危機と生物多様性の一体的解決」

こんにちは。「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長の日野広大です。私たちは、政府の「ジャパンSDGsアワード」で外務大臣賞をいただいた企業の知見を活かし、SDGsや脱炭素に関する最新情報を専門的かつ分かりやすくお届けしています。

先日、来年度の日本の環境政策の方向性を示す「令和7年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書(概要)」が公開されました。今回はこの環境白書を読み解き、特に重要なテーマである「気候危機と生物多様性の損失という二つの危機の一体的解決」について、その意味と私たちの未来への影響を深掘りします。

この記事を読めば、以下の点がクリアになります。

  • 令和7年版環境白書の最重要ポイント
  • なぜ今「気候危機」と「生物多様性」をセットで考える必要があるのか
  • 政府が打ち出す「NbS」や「TNFD」といった新戦略の正体
  • これからのビジネスや暮らしで求められるアクション
目次

令和7年版環境白書の2大ポイント:GXの進捗と「二つの危機」

今年の環境白書は、大きく二つの柱で構成されています。

  1. 経済社会のGX(グリーン・トランスフォーメーション)の進捗報告
    「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、炭素税のような仕組み(カーボンプライシング)や、プラスチック問題への対策(サーキュラーエコノミー)がどの程度進んでいるかを報告しています。
  2. 特集:気候危機と生物多様性の損失という二つの危機の一体的解決
    これが今回の最大の目玉です。これまで別々の問題として語られがちだった「地球温暖化」と「自然破壊」を、互いに深く関連し合う一つの大きな課題として捉え、同時に解決していこうという強い意志が示されました。

参考資料:環境省 令和7年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書(概要)

なぜ今「気候危機」と「生物多様性」を一緒に考えるのか?

「地球温暖化対策」と「自然保護」、どちらも大切なのは分かりますが、なぜ今「一体的解決」なのでしょうか。それは、この二つの危機が互いの足を引っ張り合う悪循環に陥っているからです。

それぞれの危機がもたらす深刻な影響

白書では、二つの危機がすでに深刻なレベルにあることをデータで示しています。

  • 気候危機:世界の平均気温は産業革命前から約1.15℃上昇し、熱波や豪雨が世界中で頻発しています。
  • 生物多様性の損失:約100万種の動植物が絶滅の危機にあり、陸の75%、海の66%の環境が人間活動によって著しく変化してしまいました。

「片方だけ」の対策ではうまくいかない理由

この二つの問題は、密接につながっています。

  • (悪影響の例) 気候変動対策として、山を切り拓いて大規模な太陽光パネルを設置すると、その地域の生態系が破壊され、生物多様性が失われてしまいます。
  • (好影響の例) 逆に、豊かな森林や湿地(生物多様性)を守り育てると、それらが二酸化炭素を吸収してくれ、気候変動対策(緩和)につながります。また、健全なサンゴ礁やマングローブ林は、高潮や津波の威力を和らげる防波堤の役割を果たし、気候変動による自然災害への「適応」にも貢献します。

このように、片方の解決策がもう片方の問題を引き起こしたり、逆に好影響を与えたりします。だからこそ、「ダイエット(気候変動対策)のために極端な食事制限をしたら健康(生物多様性)を損なった」という事態を避け、「運動とバランスの良い食事で、健康的に痩せる」ような統合的アプローチが不可欠なのです。

政府が打ち出す解決策の柱:NbS、30by30、TNFDとは?

この「一体的解決」を実現するため、白書ではいくつかの重要なキーワードが示されています。これらは今後のビジネスの常識となる可能性が高いため、ぜひ押さえておきましょう。

NbS(Nature-based Solutions):自然の力を借りる賢いアプローチ

NbSは「自然を活用した解決策」と訳されます。これは、自然が本来持つ力を賢く利用して、社会課題を解決しようという考え方です。
例えば、コンクリートで巨大なダムを建設する代わりに、水源の森林を豊かに育てて保水力を高め、洪水を防ぐといったアプローチです。これは防災(社会課題)と、CO2吸収・生物多様性保全(環境課題)を同時に解決する、まさに「一体的解決」の切り札と言えます。

30by30目標とネイチャーポジティブ:失われた自然を取り戻す約束

  • 30by30(サーティ・バイ・サーティ):2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として保全しようという国際目標です。
  • ネイチャーポジティブ:生物多様性の損失を止め、プラスに反転させる(自然を回復軌道に乗せる)という目標です。

日本もこの目標達成に向け、国立公園の管理強化だけでなく、企業が持つ森や緑地を「自然共生サイト(OECM)」として認定する制度を進めています。

TNFD:企業の自然への関わりを「見える化」する新潮流

TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures)は、企業が「自然資本(水、土、森林、生物など)や生物多様性から、どのような恩恵を受け、どのような影響を与えているか」を分析し、投資家向けに情報開示するための国際的な枠組みです。
これは、企業の健康診断書(財務諸表)に、「自然との付き合い方」という新しい評価項目が加わるようなものです。今後は、自然に配慮しない企業は投資家から選ばれなくなる時代が来ると言われています。

私たちの暮らしとビジネスはどう変わる?企業と個人ができること

この環境白書が示す未来は、一部の専門家だけのものではありません。私たちのビジネスや日々の暮らしに直結します。

【企業の視点】

  • サプライチェーンの見直し:自社の製品やサービスが、原材料調達から廃棄までの過程で、自然環境にどのような影響を与えているか把握する必要があります(TNFD対応)。
  • NbSの事業機会:自社の敷地緑化や水源涵養林の保全活動が、新たな企業価値(30by30への貢献)につながる可能性があります。
  • 再生可能エネルギーの導入:再エネを導入する際は、生物多様性への影響を最小限に抑える「ゾーニング(適切な場所選び)」がより一層重要になります。

私たちFrankPRでも、企業のTNFD対応支援や、自然共生サイト認定に向けたコンサルティングに力を入れ、企業の「自然との共生」を後押ししています。

【個人の視点】

  • 消費行動を変える:環境や生物多様性に配撮された認証(FSC認証、MSC認証など)がついた製品を選ぶ。
  • 自然を体験する:「自然共生サイト」に認定された場所を訪れたり、地域の環境保全活動に参加したりして、自然とのつながりを再認識する。
  • 声を上げる:応援したい企業の環境への取り組みをSNSでシェアしたり、地域の環境政策に関心を持ったりする。

まとめ:未来への羅針盤として環境白書をどう活かすか

令和7年版環境白書が示す最大のメッセージは、「脱炭素と自然共生は、もはや別々のゴールを目指すマラソンではなく、二人三脚で進むべき一つのレースである」ということです。

気候危機と生物多様性の損失という、人類が直面する二つの大きな危機。この複雑に絡み合った課題を解きほぐすカギは、「一体的解決」という新しい視点にあります。この白書は、そのための具体的な戦略と方向性を示した、日本社会全体の羅針盤と言えるでしょう。

企業も、個人も、この大きな潮流を他人事と捉えず、自らの事業や暮らしの中で「一体的解決」にどう貢献できるかを考えることが、持続可能な未来を築くための第一歩となります。

さらに詳しく知りたい方へ


執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大  
参考資料: 環境省「令和7年版 環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書(概要)」

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