こんにちは。「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長の日野広大です。私たちのメディア運営企業FrankPRは、ジャパンSDGsアワードで外務大臣賞を受賞するなど、国からもその専門性を評価いただいております。今回は、農業の現場で静かに広がる革命的な取り組み「J-クレジット制度」について、その可能性と未来を深掘りします。
「環境活動はコストがかかる」そんなイメージを覆し、日々の農作業が新たな収入に繋がる。この記事を読めば、脱炭素が農家の経営を支え、日本の農業を持続可能にする仕組みが分かります。
- この記事のポイント
- そもそも「J-クレジット制度」とは?基本を3分で理解
- 秋田県の事例に学ぶ、農業でJ-クレジットを生み出す2つの方法
- なぜ「中干し延長」や「バイオ炭」がお金になるのか?
- SDGs専門家が見る、農業×脱炭素の本当の価値と今後の課題
そもそも「J-クレジット制度」とは?基本を3分で解説
まず、J-クレジット制度の基本から押さえましょう。難しく考える必要はありません。
J-クレジット制度とは?
省エネ設備の導入や森林管理、再生可能エネルギーの活用などによって削減・吸収された温室効果ガスの量を、国が「クレジット(証明書)」として認証し、企業間などで売買できるようにする制度です。
企業は、自社の努力だけでは削減しきれないCO2排出量を、このクレジットを購入することで埋め合わせ(カーボン・オフセット)、削減目標を達成したと見なされます。
一方、クレジットを創出した側(例えば、今回の農家)は、それを企業に販売することで新たな収入を得られる。つまり、環境への貢献が経済的な価値を持つ、画期的な仕組みなのです。
(参考:J-クレジット制度 公式サイト)
【秋田県の事例】農業が脱炭素の主役に!J-クレジット創出の2つの方法
これまでJ-クレジットは、主に工業分野や林業が中心でした。しかし今、日本の基幹産業である農業、特に広大な面積を持つ「水田」が新たな主役として注目されています。ニュースで報じられた秋田県の事例から、具体的な2つの方法を見ていきましょう。
ケース1:水田の「中干し」期間延長 ― 目に見えないメタンガスを削減
お米作りに欠かせない田んぼですが、水を張った土の中では微生物の働きによって「メタンガス」が発生します。このメタン、実は地球温暖化への影響がCO2の28倍とも言われる強力な温室効果ガスです。
- 取り組み内容: イネの生育途中で水を抜く「中干し」の期間を、通常より7日間以上延長する。
- なぜクレジットになる?: 田んぼの水を抜くと、メタンを発生させる微生物の活動が抑えられます。このメタンガスの削減量がCO2排出削減量に換算され、クレジットとして認証されます。
- 経済的インパクト: 記事の熊谷さんの例では、1ヘクタールあたり約3万円、年間で200万円を超える収入に。これが8年間継続する見込みで、経営の安定に大きく貢献しています。
ケース2:「バイオ炭」の農地投入 ― 炭素を大地に閉じ込める
もう一つは、もみ殻などを炭化させた「バイオ炭」の活用です。
- 取り組み内容: もみ殻を高温で蒸し焼きにして炭(バイオ炭)にし、それを農地に散布(埋設)する。
- なぜクレジットになる?: 植物は成長過程でCO2を吸収し、炭素(C)として体内に蓄えます。通常、もみ殻が分解されると、この炭素はCO2として再び大気中に放出されます。しかし、炭にすることで炭素を安定した形で土壌に閉じ込める(炭素貯留)ことができます。これは、大気中からCO2を減らす「除去(ネガティブエミッション)」の取り組みとして評価されます。
- 経済的インパクト: 10アールあたり約4万円のクレジット取引が見込まれるほか、バイオ炭自体が土壌改良材や肥料の代替となり、化学肥料代を6割削減できるという二重のメリットがあります。
SDGs専門家が語る、農業×脱炭素の本当の価値と今後の課題
この動きは、単に農家の収入が増えるという話に留まりません。私たちFrankPRは、これが日本のSDGs達成における重要な一手になると見ています。
- 目標13・2・8の同時達成: 気候変動対策(目標13)が、持続可能な農業(目標2)と農家の経済的安定(目標8)に直結する、まさに一石三鳥のモデルです。これは、環境と経済がトレードオフではなく、両立可能であることを示す好事例です。
- 「みどりの食料システム戦略」の具現化: 農林水産省が推進する「みどりの食料システム戦略」は、環境負荷の低減と生産性向上を両立させることを目指しています。J-クレジットの活用は、この国家戦略を現場レベルで実現する強力なツールとなります。
- 新たな地域循環経済の創出: もみ殻という廃棄物だったものが、バイオ炭という有価物に変わる。これは、地域内で資源が循環し、新たな価値と雇用を生み出す「サーキュラーエコノミー(循環経済)」のモデルケースです。
ただし、記事中の熊谷さんが指摘するように「制度の分かりにくさ」「専門的な手続きの煩雑さ」という課題も存在します。今後は、銀行やJA、自治体、そして私たちのような専門企業が連携し、農家を手厚くサポートする「伴走支援」の仕組みづくりが不可欠です。
私たちができること ― 選ぶことで、未来の農業を応援する
この新しい動きを、一消費者、一企業としてどう応援できるでしょうか。
- 企業の皆様へ:
カーボン・オフセットでJ-クレジットを購入する際、日本の農業を支え、食料安全保障にも貢献する「農業由来クレジット」を選択肢に入れてみてはいかがでしょうか。そのストーリーは、貴社のESG活動に深い価値を与えます。 - 個人の皆様へ:
まだ数は少ないですが、こうした環境配慮型の農法で作られたお米や野菜を見かけたら、ぜひ応援の意を込めて選んでみてください。私たちの消費行動が、持続可能な農業を実践する農家への何よりのメッセージとなります。
まとめ
農業分野におけるJ-クレジット制度の活用は、気候変動という地球規模の課題を、地域経済の活性化と農家の経営改善に繋げる革新的な取り組みです。
「中干し延長」や「バイオ炭」といった日々の営みが、脱炭素に貢献し、新たな収入を生む。この新しい常識は、日本の農業の未来をより明るく、持続可能なものに変えていく大きなポテンシャルを秘めています。
執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大
参考資料: 日本テレビ系列ニュース、J-クレジット制度公式サイト、農林水産省「みどりの食料システム戦略」https://news.ntv.co.jp/n/abs/category/life/ababcfed7f883746c4b9c6ed0c0913d0b7
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