世界EV市場、2024年販売1700万台へ!IEA最新報告が示す脱炭素への加速と日本の課題

脱炭素とSDGsの知恵袋の編集長、日野広大です。私たちの活動は、幸いにも政府SDGs推進本部からもジャパンSDGsアワード「外務大臣賞」を受賞するなど、その専門性を評価いただいております。今回は、国際エネルギー機関(IEA)が2024年4月23日に発表した最新の「世界EV見通し(Global EV Outlook)」から、驚異的な成長を続ける電気自動車(EV)市場の現状と未来、そしてそれが私たちの社会や地球環境、SDGs達成にどのような意味を持つのかを深掘り解説します。

本記事のポイント:

  • IEA最新報告:2024年、世界のEV販売台数は1700万台に到達予測!
  • 市場を牽引する中国、そして米国・欧州の動向とは?
  • なぜEVシフトは加速するのか?3つの大きな要因
  • 2035年の衝撃予測:販売される車の「2台に1台」から「3台に2台」がEVに?
  • 石油消費削減への巨大なインパクトとエネルギーセクターの変革
  • EV普及の鍵となる「価格」「充電インフラ」の現状と課題
  • 日本市場への示唆と私たちが取り組むべきこと
目次

IEA最新報告:世界のEV販売、2024年も力強く成長し1700万台へ

IEAが発表した最新の「世界EV見通し」によると、2024年の世界の電気自動車(乗用車)販売台数は、前年をさらに上回り、年末までに約1700万台に達する見込みです。これは驚異的な数字であり、世界の自動車産業が大きな変革期にあることを明確に示しています。

2024年第1四半期においても、世界のEV販売台数は前年同期比で約25%増を記録しました。これは、前年同期の成長率と同水準ですが、販売台数の母数自体が大きくなっている中での達成であり、EVシフトの勢いが衰えていないことを示しています。実際、今年最初の3ヶ月間に販売されたEVの台数は、2020年一年間の総販売台数にほぼ匹敵するほどです。

この成長は、2023年の記録的な実績の上に成り立っています。2023年の世界のEV販売台数は、前年比35%増の約1400万台に達しました。

地域別動向:中国が市場を牽引、米国・欧州も着実に普及

EV需要は依然として中国、欧州、米国に集中していますが、それぞれの市場で注目すべき動向が見られます。

  • 中国: 2024年には、EV販売台数が約1000万台に達すると予測されており、これは中国国内の全自動車販売台数の約45%を占めることになります。IEAの予測では、現行政策が維持された場合、2030年までに中国の路上を走る車の3台に1台がEVになるとされています。
  • 米国: 2024年には、販売される新車の約9台に1台がEVになると予測されています。2030年までには、路上走行車の5台に1台近くがEVになる見込みです。
  • 欧州: 乗用車販売全体の先行きが弱いことや、一部の国で補助金が段階的に廃止されているにもかかわらず、EVは依然として堅調で、2024年に販売される新車の約4台に1台を占める見通しです。米国同様、2030年までには路上走行車の5台に1台近くがEVになると予測されています。

また、ベトナム(全販売台数の15%がEV)やタイ(同10%)といった一部の新興市場でも、EVの普及が加速している点は注目に値します。

なぜEVシフトは加速するのか?その背景にある推進力

IEAは、EV市場の力強い成長の背景には、主に以下の要因があると分析しています。

  1. EVサプライチェーンへの大規模投資: 自動車メーカー各社は政府のEV強化目標に応えるべく、巨額の資金を投じてきました。過去5年間の活発な投資により、世界のEV用バッテリー生産能力は、今後10年間で急増すると予想される需要に対応できる体制が整いつつあります。
  2. 継続的な政策支援: 各国政府による購入補助金、税制優遇、充電インフラ整備支援、そして将来的な内燃機関車の販売禁止目標などが、EV市場の成長を後押ししています。
  3. EV本体およびバッテリー価格の低下: 技術革新と生産規模の拡大により、EVの車両価格と、そのコストの大きな部分を占めるバッテリーの価格が低下傾向にあります。

IEAのファティ・ビロル事務局長は、「EVを巡る継続的な勢いは我々のデータからも明らかであり、一部市場では特に強い。世界のEV革命は失速するどころか、新たな成長段階に移行しようとしているようだ」とコメントしています。

2035年の未来予測:EVが主流となる時代へ

今回の報告書で特に衝撃的なのは、その長期的な予測です。

  • 現行政策が維持された場合(ステッドファスト・シナリオ): 2035年までに世界で販売される自動車の2台に1台がEVになる。
  • 各国が発表したエネルギー・気候変動に関する公約が完全かつ期限内に達成された場合(公約達成シナリオ): 2035年までに世界で販売される自動車の実に3台に2台がEVになる。

この「公約達成シナリオ」が現実となれば、乗用車からバン、トラック、バス、そして二輪・三輪車に至るまでの急速なEV化により、日量約1200万バレルの石油需要が削減されると試算されています。これは、現在の中国と欧州の道路交通における石油需要を合わせた量に匹敵する規模であり、気候変動対策(SDGs目標13)およびエネルギー安全保障(SDGs目標7)に計り知れない貢献をもたらします。

EV普及の鍵:「手頃な価格」と「充電インフラ」

EVへの移行ペースは、「手頃な価格(アフォーダビリティ)」にかかっているとIEAは強調しています。

  • 価格動向:
    • 中国では、2023年に販売されたEVの60%以上が、すでに従来の内燃機関車よりも安価で購入可能でした。
    • 一方、欧州や米国では、平均すると依然として内燃機関車の方が購入価格は安いものの、市場競争の激化とバッテリー技術の向上により、今後数年で価格差は縮小すると予想されています。
    • 初期費用が高くても、燃料費やメンテナンス費といった運用コストが低いため、長期的には経済的なメリットがある場合も多いです。

また、中国の自動車メーカーによるEV輸出の増加も、購入価格の低下圧力となる可能性があります。2023年には世界のEV販売の半数以上を中国メーカーが占め、手頃な価格のモデルが海外市場でも好調な売れ行きを見せています。これは、従来の自動車産業とは異なる、新たな生産国の構図が生まれつつあることを示唆しています。

もう一つの重要な鍵は、「充電インフラの整備」です。
2023年には、世界の公共充電ポイント設置数は前年比で40%増加し、特に急速充電器の伸びが緩速充電器を上回りました。しかし、政府の公約に沿ったレベルのEV普及を達成するためには、2035年までに充電ネットワークを現在の6倍に拡大する必要があるとIEAは指摘しています。同時に、充電による電力需要の増加が電力系統に過度な負担をかけないよう、政策支援と慎重な計画が不可欠です。

日本市場への示唆と、私たちが考えるべきこと

今回のIEAの報告は、世界のEVシフトが予想以上のスピードで進んでいることを明確に示しており、日本市場にとっても多くの示唆を含んでいます。

  • 国内メーカーの競争力: 世界市場、特に成長著しい中国市場や、今後拡大が見込まれる新興国市場において、日本の自動車メーカーが競争力を維持・強化していくためには、魅力的なEVモデルの開発と供給体制の確立が急務です。
  • 充電インフラ整備の加速: 日本国内における充電インフラ、特に集合住宅や地方における充電アクセスの改善は、EV普及を促進する上で避けて通れない課題です。利便性の高い充電ネットワークの構築が求められます。
  • 再生可能エネルギーとの連携: EVの環境性能を最大限に引き出すためには、充電に使われる電力が再生可能エネルギー由来であることが重要です。再エネ導入拡大とEV普及を一体的に進める視点が必要です(SDGs目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」)。
  • サプライチェーンの強靭化: バッテリー材料の確保やリサイクル体制の構築など、EVのサプライチェーン全体での持続可能性と経済安全保障を高める取り組みが重要となります。

私たち消費者一人ひとりも、次に車を購入する際の選択肢としてEVを真剣に検討すること、そしてエネルギー問題や環境問題への意識を高め、持続可能な社会への転換を後押しする行動をとることが求められています(SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」)。

まとめ:EV革命は新たなフェーズへ、脱炭素社会実現に向けた大きな一歩

IEAの最新報告は、電気自動車へのシフトが単なるトレンドではなく、世界の自動車産業とエネルギーセクターを根本から変える「革命」であり、それが今まさに新たな成長フェーズに入ろうとしていることを力強く示しています。この動きは、地球温暖化対策という喫緊の課題に対する具体的な解決策の一つであり、SDGsが目指す持続可能な未来への大きな推進力となるでしょう。

もちろん、価格、充電インフラ、電力系統への影響、資源確保など、克服すべき課題も残されています。しかし、技術革新のスピードと、各国政府および企業の積極的な取り組みを見る限り、その未来は非常に明るいと言えるのではないでしょうか。

私たち「脱炭素とSDGsの知恵袋」は、引き続きこのEV革命の最前線を注視し、皆様の理解と行動の一助となる情報をお届けしてまいります。


執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大
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