こんにちは。「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長の日野広大です。当メディアは、ジャパンSDGsアワードで外務大臣賞を受賞した企業の知見を活かし、国内外の最新動向を厳選してお届けしています。
今回は、2025年8月1日に欧州委員会が発表した「サーキュラーエコノミー法(Circular Economy Act)」に向けた意見公募の開始という、非常に重要なニュースを解説します。これは単なるEUの政策変更ではなく、世界の経済ルールを変え、日本のビジネスにも大きな影響を与える可能性を秘めた動きです。
この記事のポイント
- EUが目指す「サーキュラーエコノミー法」とは何か?
- なぜ今、この法律が重要なのか?その専門的背景を解説
- 日本企業に求められる対応とビジネスチャンス
- 私たちが今日からできること
EU「サーキュラーエコノミー法」とは?―すべての製品の”終わり”を”始まり”に変えるルール作り
今回、欧州委員会が発表したのは、2026年の採択を目指す新しい法律「サーキュラーエコノミー法」の草案作りに向け、2025年11月6日まで広く意見を募集するというものです。
この法律の核心は、サーキュラーエコノミー(循環型経済)への移行を加速させることにあります。
これまでの経済は、資源を採掘し、製品を作り、使ったら捨てるという一方通行の「リニアエコノミー(直線型経済)」でした。それに対しサーキュラーエコノミーは、製品や資源を廃棄せず、修理・再利用・リサイクルを通じて価値を最大限に引き出し、循環させ続ける経済モデルです。
EUが目指すのは、このサーキュラーエコノミーを、一部の先進的な取り組みから、EU全体のスタンダードにすること。具体的には以下の3つの目標を掲げています。
- 二次原料(リサイクル素材)の単一市場を設立する
- 高品質なリサイクル素材の供給を増やす
- EU域内でのリサイクル素材の需要を刺激する
これは、リサイクル素材を「廃棄物」ではなく、新品の資源と同じように信頼性高く取引できる「製品」として扱う市場を、EU全体で確立することを意味します。
専門的視点:なぜ今、EUはサーキュラーエコノミーを急ぐのか?
この動きの背景には、単なる環境保護以上の、EUのしたたかな国家戦略があります。私たち専門家が特に注目しているのは、以下の3つの側面です。
1. 経済安全保障の強化:資源を域内で確保する
ウクライナ情勢やパンデミックを経て、EUは特定の国からの資源供給に依存するリスクを痛感しました。特に、EVやデジタル機器に不可欠な重要原材料(クリティカルローマテリアル)の多くを域外に頼っています。
サーキュラーエコノミーは、使用済み製品を「都市鉱山」と捉え、そこから貴重な資源を回収・再利用することで、資源の対外依存度を下げ、経済安全保障を高める狙いがあります。これは、EUが最近採択した「重要原材料法(Critical Raw Materials Act)」とも密接に連携しています。
2. 産業競争力の向上:新たな”貿易の壁”となる可能性
EUは、「持続可能な製品のためのエコデザイン規則(ESPR)」などを通じて、製品の設計段階からリサイクルしやすさや耐久性を義務付ける動きを強めています。
今回のサーキュラーエコノミー法は、この流れを決定的にするものです。将来的には、「EUの循環基準を満たさない製品は市場に入れない」という、事実上の非関税障壁、つまり”グリーンな貿易の壁”となる可能性があります。これは、EU域内に輸出を行うすべての日本企業にとって、避けては通れない課題です。
3. 脱炭素目標の達成:隠れたCO2排出を削減する
製品の製造段階、特に資源採掘や加工では、莫大なエネルギーが消費され、CO2が排出されます。リサイクル素材を使えば、この工程を大幅に削減できるため、脱炭素にも大きく貢献します。
EUは2030年までにサーキュラーエコノミー率を倍増させる目標を掲げており、これは野心的な気候目標を達成するための重要な柱なのです。
日本企業への影響と求められるアクション
このEUの動きは、日本企業にとって「規制強化」というリスクであると同時に、新たな「ビジネスチャンス」でもあります。
企業が取り組むべき3つのアクション
- サプライチェーンの再点検と透明化
自社製品がどのような素材から作られ、使用後にどうなるのか、全ライフサイクルを把握する必要があります。特にEUに輸出している企業は、製品の回収・リサイクル体制の構築が急務です。 - サーキュラー・バイ・デザイン(循環を前提とした設計)への転換
製品を設計する段階から、「修理しやすさ」「分解しやすさ」「リサイクルしやすい素材の使用」を組み込むことが、今後のグローバル市場での競争力の源泉となります。 - 情報収集と意見発信
今回の意見公募は、日本企業も参加可能です。EUの政策決定プロセスに関与し、日本の技術やビジネスモデルの優位性をアピールする絶好の機会と捉えるべきでしょう。
まとめ:未来の”当たり前”を作るルール作りに参加しよう
今回のEUの発表は、サーキュラーエコノミーがもはや理想論ではなく、具体的な経済システムとして実装される段階に入ったことを示すものです。これは、私たちの暮らしやビジネスのあり方を根本から変える大きなうねりです。
この変化をただ待つのではなく、未来のスタンダードを形作るプロセスに積極的に関わっていく姿勢が、これからの企業にも、そして私たち一人ひとりにも求められています。
まずは、身の回りの製品がどこから来て、どこへ行くのかを想像してみる。それが、サーキュラーエコノミーという壮大なビジョンへの第一歩です。
執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大 参考資料: Commission launches consultation and call for evidence for upcoming Circular Economy Act (EC)
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