マッキンゼーの提言:クリーンエネルギーへの転換:電力システム変革の6つの課題と対策

1.今回解説する脱炭素・SDGsニュース:McKinsey Global Institute-Power

SDGsの知恵袋編集部の菊尾です。 今日は下記のSDGsニュース記事について考察と意見をお伝えします。

エネルギー転換の中核を担う電力システムの改革について、最新の課題と展望が明らかになりました。現在、電力は最終エネルギー消費の約20%を占めるにとどまり、約7.6億人が電力へのアクセスを欠いています。2050年までに電力システムの容量を5倍に拡大し、低排出源からの発電を90%以上に引き上げる必要があることが示されています。この目標達成には、再生可能エネルギーの変動性管理や新興電力システムの拡大など、6つの重要課題への取り組みが不可欠です。

2.ニュースの要約

エネルギー転換において、電力網は規模を拡大し、分散化し、地域間の相互接続を強化する必要があります。2050年までに電力網の長さは2倍から3倍に増加する必要があり、特に新興市場では急速な成長が求められます。また、クリーンな確実な電力源として原子力や水力が重要であり、これらの技術の導入にはさまざまな物理的課題が伴います。特に、原子力発電は技術的成熟度が高いものの、複雑な設計や建設の課題、核廃棄物の管理といった障害を克服する必要があります。

3.SDGsニュースの主な要点

  • エネルギー転換における電力システムの重要性と現状の課題
  • 2050年までに電力システム容量を41テラワットまで5倍に拡大低排出源からの発電割合を90-95%まで引き上げる必要性
  • 再生可能エネルギーの変動性管理における技術的課題新興電力システムの拡大と柔軟性確保の重要性
  • 再生可能エネルギー設備のための土地確保の課題送電網拡張とクリーン安定電源の開発における課題
  • エネルギー貯蔵技術の革新と展開の必要性

4.「SDGsの知恵袋の編集部」の考察と意見

はじめに

今、世界のエネルギーシステムは大きな転換期を迎えています。電力は私たちの生活や産業活動に不可欠なものでありながら、その最終エネルギー消費に占める割合は約20%にとどまっています。さらに深刻なのは、世界で約7.6億人もの人々が未だに電力へのアクセスを持っていないという現実です。

このような状況の中、新たな課題として浮上しているのが、データセンターによる電力需要の急増です。2022年時点で全世界の電力需要の約2%(450テラワット時)を占めるデータセンターの電力消費は、2026年までに1,000テラワット時以上に倍増すると予測されています。AIの発展と共に、この需要はさらに加速する可能性があります。

現状分析:6つの重要課題

1. 再生可能エネルギーの変動性管理

再生可能エネルギーの導入拡大に伴い、電力供給の変動性が大きな課題となっています。カリフォルニアの事例は、この課題を如実に示しています。いわゆる「ダックカーブ」と呼ばれる現象では、2015年から2023年の間に日中の太陽光発電過多と夕方の需要急増による変動幅が2倍以上に拡大しました。

さらに深刻なのは季節間の変動です。ドイツの事例では、VRE(変動性再生可能エネルギー)が年間発電量の90%を占めるシナリオにおいても、年間75日間で需要の4分の1が未達となる可能性が指摘されています。この問題に対処するためには、エネルギー貯蔵システムの大規模展開や、新型長時間エネルギー貯蔵(LDES)技術の開発が不可欠です。

2. 新興電力システムの拡大

新興国における電力システムの拡大は、特に重要な課題です。2050年までに電力容量を現在の6倍に拡大する必要があり、再生可能エネルギーについては実に18倍もの成長が求められています。これは先進国の8倍という目標を大きく上回る数字です。

システムの柔軟性確保も重要な課題です。新興国の電力システムには、既存システムの3倍の柔軟性が必要とされており、これには大規模な投資とインフラ整備が必要となります。中国やインドでは、すでにエネルギー貯蔵設備の急速な展開が始まっていますが、まだ道のりは長いと言えます。

3. 電力需要の柔軟性確保

需要側の柔軟性確保も重要な課題です。EV充電インフラの整備やデータセンターの電力需要管理、産業用需要の時間シフトなど、様々な取り組みが必要とされています。

スマートメーターの普及率を見ると、米国が約80%、EUが約60%、アジア太平洋地域が約50%となっています。しかし、アフリカ、インド、ラテンアメリカでは10%未満にとどまっており、大きな地域格差が存在します。

4. 再生可能エネルギー設備の用地確保

再生可能エネルギー設備の導入には、相当規模の土地が必要です。太陽光発電は年間1メガワット時あたり約20平方メートル、風力発電は約100平方メートルの土地を必要とします。これは従来の石炭火力発電(約15平方メートル)と比較すると、かなり大きな面積となります。

しかし、この課題には解決の糸口も見えてきています。営農型太陽光発電(ソーラーシェアリング)や建築物への太陽光パネルの設置、洋上風力発電の活用など、様々な創意工夫が進められています。

5. 送電網の拡張

送電網の拡張も大きな課題です。2050年までに現在の2-4倍の規模への拡大が必要とされています。しかし、許認可取得に5-15年もかかるケースが多く、建設資材の供給制約も深刻な問題となっています。

中国は2022年に1,660億ドルを送電網に投資し、他の全ての国々の合計(1,180億ドル)を上回る規模の投資を行っています。このような大規模投資と共に、許認可プロセスの簡素化やスマートグリッド技術の活用も進められています。

6. クリーン安定電源の開発

安定的な電力供給を維持しつつ、脱炭素化を進めるためには、クリーン安定電源の開発も重要です。原子力発電の安全性確保、炭素回収技術の効率向上、水素発電の実用化など、様々な技術的課題に取り組む必要があります。

これらの技術開発には、コスト競争力の確保や社会的受容性の向上、技術人材の育成など、多面的な取り組みが求められます。

今後の展望と対策

短期的な取り組み(1-3年)

まずは、既存システムの効率化から始めることが重要です。スマートメーターの導入や省エネ設備への投資、従業員教育プログラムの実施など、比較的取り組みやすい施策から着手することをお勧めします。

デマンドレスポンスの導入やピークシフトの実施、エネルギー使用の可視化なども、短期的に効果を上げやすい取り組みと言えます。

中長期的な取り組み(3-10年)

より長期的な視点では、分散型エネルギーシステムの構築や地域間連系の強化、蓄電システムの大規模導入などが重要になってきます。

また、新型蓄電技術の開発やスマートグリッドの実装、クリーン安定電源の開発など、技術革新への投資も欠かせません。

まとめ

エネルギー転換は、確かに複雑で困難な課題です。しかし、松尾真希代表が指摘するように、「技術革新だけでなく、社会システムの包括的な変革」を進めることで、必ず道は開けます。

帝国データバンクの調査によれば、すでにSDGsに取り組んでいる企業の7割が効果を実感しているという結果も出ています。各企業が自社の状況に応じた段階的なアプローチを採用し、一歩ずつ前進していくことが重要です。

私たちFrankPRは、これからも最新の情報と実践的なソリューションを提供し続けることで、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。共に、より良い未来を築いていきましょう。

SDGsの知恵袋編集部 菊尾

ファッション業界として史上初の外務省ジャパンSDGsアワードを受賞した株式会社FrankPRのスタッフです。2024年現在、日本で5社しかいない外務省と環境省のSDGsアワード受賞社長である松尾真希から直接学んできた人材不足や資金不足でもできる経営実践型の脱炭素やサステナビリティの知識を生かしてお役に立てる記事を執筆してまいります。

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