こんにちは。「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長の日野広大です。私たちの身の回りには、商品を守り、品質を保つための「容器」や「包装」が溢れています。これらをリサイクルし、持続可能な社会を目指すための重要な法律が「容器包装リサイクル法(容リ法)」です。
私たちFrankPRは、ジャパンSDGsアワードで外務大臣賞をいただくなど、SDGs推進の専門家として活動しており、その視点から今回は、この「容リ法」の基本から、2022年にスタートした「プラスチック資源循環促進法(プラ新法)」によって企業に課された新たな義務、そしてそれがSDGs達成にどう繋がるのかを、より深く、具体的に解説します。
この記事でわかること
- 容器包装リサイクル法の「3者の役割分担」という基本構造
- リサイクル義務を負う「特定事業者」の具体的な定義
- ごみが資源に変わるまでの流れと、意外なリサイクル製品
- 企業の義務を強化する「プラスチック新法」のポイント
- これらの取り組みがSDGs(特に目標12, 14, 13)にどう貢献するのか
そもそも「容器包装リサイクル法」とは?基本を深く知る
容器包装リサイクル法(正式名称:容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律)は、家庭から出るごみの約6割(容積比)を占める容器包装廃棄物を、資源として有効活用するために1997年から施行されている法律です。
この法律の最大の特徴は、「拡大生産者責任(EPR)」の考え方に基づき、3者の役割分担を明確に定めている点です。
- ① 消費者:ルールに従って正しく「分別排出」する。これがすべてのスタートです。
- ② 市町村:分別された容器包装を「分別収集」し、リサイクル業者に引き渡すために選別・圧縮などを行います。
- ③ 事業者:自社が製造または利用した容器包装を「リサイクル(再商品化)」する義務を負います。
このトライアングルがうまく機能することで、ごみは減り、貴重な資源が国内で循環するのです。
特定事業者とは? あなたの会社も対象かもしれません
では、リサイクル義務を負う「事業者」とは具体的に誰を指すのでしょうか。法律では「特定事業者」と定義されており、主に以下の2種類に分けられます。
- 容器を製造・輸入する事業者:ガラスびんメーカー、ペットボトルメーカー、包装フィルムメーカーなど。
- 商品に容器・包装を利用して販売する事業者:飲料メーカー、食品メーカー、スーパー、コンビニ、デパート、通販事業者など。商品の輸入業者も含まれます。
ポイントは、多くの事業者が「2」に該当する可能性があるという点です。自社で容器を作っていなくても、商品を仕入れて販売する際に使われている容器や包装(例えば、商品を詰める箱や袋)に対して、法律上の義務が発生する場合があります。
ごみから資源へ。リサイクルの流れと意外な再生品
私たちが分別した容器包装は、どのようにして新たな製品に生まれ変わるのでしょうか。
分別排出 → 分別収集 → 選別・圧縮(中間処理) → 再商品化(リサイクル) → 新たな製品へ
この流れを経て、容器包装は驚くようなものに姿を変えます。
- ペットボトル → 衣類(フリースなど)、文房具(ボールペン)、食品トレー、再びペットボトルへ
- ガラスびん → 建築資材(断熱材のグラスウール)、道路の舗装材、再びガラスびんへ
- 紙パック → トイレットペーパー、ティッシュペーパー
- プラスチック製容器包装(お菓子の袋、シャンプーのボトルなど) → 公園のベンチ、パレット、プラスチック製品の原料
商品についているこれらの「識別表示マーク」は、私たちが分別する際の重要な目印です。
なぜ今、企業の義務が強化?背景にある「プラスチック新法」
従来の容リ法に加え、近年、企業の責任はさらに一歩進んだものになっています。その大きなきっかけが、2022年4月に施行された「プラスチック資源循環促進法(プラ新法)」です。
この新しい法律が生まれた背景には、世界的な海洋プラスチックごみ問題や、気候変動対策としての脱炭素化の流れがあります。
ここで重要なのは、容リ法とプラ新法の違いです。
- 容リ法:主に「使い終わった後」のリサイクルを義務付ける。
- プラ新法:そもそもプラスチックごみを「出さない(排出抑制)」ための取り組みを、製品の設計段階から求める。
プラ新法では、コンビニのスプーンやホテルのアメニティなど、これまで容リ法の対象外だったプラスチック製品も対象とし、それらを提供する事業者に対して削減努力を求めています。
【専門家の視点】
これは、廃棄物問題へのアプローチが「下流(リサイクル)」から「上流(設計・提供段階)」へと大きくシフトしたことを意味します。単にリサイクル費用を負担するだけでなく、ビジネスモデルそのものに「サーキュラーエコノミー(循環経済)」の視点を組み込むことが、現代の企業には求められているのです。
【ここが重要】企業に求められる具体的なアクション
プラ新法の施行により、特に年間5トン以上のワンウェイ(使い捨て)プラスチック製品を提供する事業者(小売業、飲食業、宿泊業など)は、「特定プラスチック使用製品」の提供方法を見直すことが求められるようになりました。
具体的には、以下のような取り組みが義務付けられています。
- 有料化:レジ袋のように、スプーンやフォークを有料で提供する。
- 代替素材への切り替え:木製スプーンや紙ストローなど、プラスチック以外の素材を選ぶ。
- 提供方法の工夫:提供前に消費者に必要かどうかを確認する。
- リユースの促進:繰り返し使える容器の導入(例:デリバリーでの返却式容器)。
【コラム】義務を果たさない「ただ乗り事業者」問題
容リ法には、リサイクル義務を果たさない事業者、いわゆる「ただ乗り事業者」に対する罰則規定があります。国は指導・助言から、勧告、企業名の公表、最終的には罰金(100万円以下)を科すことができます。法律を遵守し、社会の一員としての責任を果たすことは、企業の信頼性(コンプライアンス)を維持する上で極めて重要です。
企業の取り組みがSDGs達成につながる理由
こうした企業の取り組みは、単なるコストや義務ではなく、持続可能な開発目標(SDGs)への貢献に直結します。
- 目標12「つくる責任 つかう責任」
拡大生産者責任(EPR)は、まさにこの目標を具現化したものです。製品のライフサイクル全体で環境負荷を減らすことは、持続可能な生産消費パターンを確保する上で不可欠です。 - 目標14「海の豊かさを守ろう」
プラスチックごみの排出を抑制することは、海洋汚染の主要因であるプラスチックごみを減らし、海の生態系を守ることに直接貢献します。 - 目標13「気候変動に具体的な対策を」
プラスチックの多くは石油から作られます。リサイクルや使用量削減によって、新たな石油資源の使用を抑えることは、採掘や製造にかかるエネルギーを削減し、CO2排出量の抑制、つまり脱炭素につながります。
まとめ:未来への責任を果たす企業が選ばれる時代へ
容器包装リサイクル法、そしてプラスチック資源循環促進法は、企業に対し、廃棄物問題へのより積極的な関与を求めています。これは、単なる負担増ではなく、自社の事業と社会課題解決を結びつけ、企業価値を高めるチャンスです。
環境への配慮は、今や企業経営の根幹をなす要素です。これらの法律を遵守し、さらに一歩進んだ取り組みを行うことが、消費者や投資家から選ばれる「サステナブルな企業」への道を開きます。
私たち消費者も、明日からの買い物で商品の裏にある「リサイクルマーク」を少し意識してみる。そんな小さな行動の積み重ねが、社会全体で資源を循環させる大きな力になります。
参考資料: 環境省「プラスチック資源循環」、経済産業省「容器包装リサイクル」、公益財団法人 日本容器包装リサイクル協会
日経GX記事:【容器包装リサイクル法】瓶やレジ袋、企業に再生義務://www.nikkei.com/prime/gx/article/DGXZQOUC14A5Y0U5A510C2000000
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