【専門家解説】なぜ環境省は気候変動の「フェイク情報」対策に乗り出したのか?SDGsへの影響と私たちができること

脱炭素とSDGsの知恵袋の編集長、日野広大です。私たちの未来を左右する気候変動対策。その土台となる「事実」が今、静かに、しかし深刻に脅かされています。2025年6月20日、日本の環境省が気候変動に関する「フェイク情報」対策として特設ページを開設しました。これは単なるウェブサイトの更新ではありません。気候変動対策の根幹に関わる、極めて重要な一歩です。私たちFrankPRは、政府SDGs推進本部よりジャパンSDGsアワード外務大臣賞をいただくなど、長年SDGsの推進に取り組んできましたが、こうした偽情報の広がりは、社会全体の努力を後退させかねない深刻な問題だと捉えています。本記事では、このニュースの背景と重要性を、SDGsの視点から専門的に、そして分かりやすく解説します。

この記事のポイント

  • 環境省が「フェイク情報」対策に乗り出した背景
  • なぜ気候変動の偽情報がSDGs達成を阻むのか
  • 情報の真偽を見抜くための具体的な3つのポイント
  • 私たち個人と企業が今すぐできること
目次

広がる気候変動の偽情報、環境省が特設ページで対抗

今回、環境省が対策に乗り出した背景には、インターネット上での偽情報・誤情報の看過できない広がりがあります。ニュースによると、特に2024年後半から「地球温暖化は起きていない」「人間の活動で排出される温室効果ガスは関係ない」といった、科学的根拠に基づかない投稿が相次いでいるとのことです。

これを受け、環境省はホームページに特設ページ『気候変動の科学的知見(A-PLAT)』を開設しました。

このページでは、

  • 国連のIPCC(気候変動に関する政府間パネル)が「地球温暖化の主な原因は人間の活動」と結論付けた最新報告
  • 日本国内で猛暑日や大雨の頻度が増えていることを示す観測データ

などが集約され、誰でも科学的根拠にアクセスできるようになっています。浅尾環境大臣が「取り組みの妨げになりかねずゆゆしき問題だ」と述べたように、これは気候変動対策の成否を分ける重要な課題なのです。

参考ニュース: 環境省 気候変動に関するフェイク情報拡散防止で特設ページ (NHK NEWS WEB)
参照: 環境省 気候変動適応情報プラットフォーム (A-PLAT) 気候変動の科学的知見

なぜ今、フェイク情報が問題なのか?SDGs達成を阻む深刻なリスク

気候変動に関する偽情報の問題は、単に「間違った情報が流れている」こと以上の深刻な意味を持ちます。これは、SDGs、特に目標13「気候変動に具体的な対策を」の土台そのものを破壊しかねない行為です。

気候変動対策の「羅針盤」を狂わせる偽情報

気候変動対策は、科学的データという「羅針盤」があって初めて、正しい方向へ進むことができます。偽情報は、この羅針盤を意図的に狂わせるようなものです。もし「温暖化は起きていない」という情報が社会の共通認識になれば、再生可能エネルギーへの投資や省エネ技術の開発といった、脱炭素社会への移行に向けた努力の意義が失われてしまいます。

これは、SDGsの基本理念である「誰一人取り残さない」にも反します。気候変動の影響は、災害への備えが脆弱な地域や人々に、より深刻な被害をもたらすからです。偽情報によって対策が遅れれば、最も弱い立場の人々が真っ先に取り残されることになるのです。

国際的な潮流と日本の取り組み

この問題は日本に限りません。国連も「Verified」キャンペーンなどを通じて、偽情報との戦いを世界的に展開しています。今回の環境省の取り組みは、こうした国際的な潮流に沿ったものであり、気候変動対策における日本の責任ある立場を示すものです。

偽情報の広がりは、SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」目標17「パートナーシップで目標を達成しよう」をも脅かします。情報が歪められれば、社会に分断が生まれ、気候変動という地球規模の課題に立ち向かうための建設的な対話や協力(パートナーシップ)が困難になるからです。

編集長解説:情報の真偽を見抜く3つのポイント【情報リテラシー】

では、私たちは氾濫する情報の中から、どうやって真実を見抜けばよいのでしょうか。ここでは、すぐに実践できる3つのポイントをご紹介します。

ポイント1:情報源はどこか?(一次情報を確認する)

その情報は「誰が」発信していますか?「友達が言っていた」「まとめサイトに書いてあった」で思考を止めず、元の情報源(一次情報)を探す癖をつけましょう。気候変動に関しては、環境省や気象庁、国連のIPCC、信頼できる研究機関などが発信する情報が一次情報にあたります。今回の特設ページは、まさにそのための入り口です。

ポイント2:感情に訴えかけていないか?(扇動的な言葉に注意)

「衝撃の真実」「政府が隠す不都合なデータ」といった、過度に感情を煽る言葉や、陰謀論めいた表現には注意が必要です。科学的な事実は、通常、淡々と客観的に述べられます。扇情的な見出しは、読者の冷静な判断を妨げるための罠かもしれません。

ポイント3:専門家の「総意(コンセンサス)」は何か?

「温暖化を否定する科学者もいる」という主張は、偽情報でよく使われる手口です。しかし、科学の世界で重要なのは、個別の意見ではなく、多くの専門家による検証を経て形成された「科学的コンセンサス」です。IPCCの報告書は、世界中の数千人の科学者が参加し、膨大な査読済み論文を基にまとめたもので、まさに気候科学における現在のコンセンサスを示しています。

私たちの暮らしと企業の取り組みへの示唆

この問題は、私たち一人ひとりの情報との向き合い方、そして企業の社会に対する責任のあり方を問い直します。

個人ができること:賢い情報消費者から、信頼できる情報の発信者へ

  1. 一度立ち止まる: シェアする前に、その情報は確かか、一呼吸おいて考えましょう。
  2. 事実を確認する: 環境省の特設ページのような公的で信頼できる情報源でファクトチェックを行いましょう。
  3. 対話する: 周囲の人と、感情的にならずに事実に基づいて気候変動について話してみましょう。正しい知識の共有が、社会全体のレジリエンスを高めます。

企業に求められること:透明性の高い情報開示とGXへの貢献

企業には、自社の事業活動が気候に与える影響について、透明性高く、科学的根拠に基づいて情報を開示する責任があります。これはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言でも求められていることであり、投資家や消費者からの信頼を得る上で不可欠です。
私たちFrankPRも、クライアント企業がGX(グリーン・トランスフォーメーション)への取り組みを社会に正しく発信していくサポートを通じて、偽情報に惑わされない社会の実現に貢献したいと考えています。

まとめ:不確実な時代だからこそ、科学的根拠に基づく対話を

環境省による今回の特設ページ開設は、気候変動対策が新たなフェーズに入ったことを示す象徴的な出来事です。もはや、対策を「進めるか、進めないか」の議論ではなく、「科学的根拠に基づき、いかに効果的に進めるか」が問われています。

偽情報の拡散は、私たちの社会を分断し、未来への歩みを遅らせる深刻な脅威です。不確実で複雑な時代だからこそ、私たち一人ひとりが情報の受け手として、そして発信者として賢明であることが求められます。科学的な声に耳を傾け、事実に基づいた建設的な対話を社会全体で育んでいくこと。それが、SDGsが目指す持続可能な未来への最も確実な道筋です。


執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大
参考資料: NHK NEWS WEB、環境省 気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)

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