「光を電気のように当たり前にする」——フォトニクスで持続可能な社会インフラを築くLightBridgeの挑戦

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通信、エネルギー、そして医療。現代社会の基盤は、目に見えない「光」の技術によって支えられています。そんな中、ユネスコの設定した5月16日の「光の国際デー」をご存知でしょうか?

光に関する科学技術の進歩を祝い、教育や持続可能な開発(SDGs)への貢献を意識する。そんな「光」が注目を集める日に際してとくに注目したいのが、「光の技術」を扱い、革新的なアプローチで業界に風穴を開ける株式会社LightBridgeです。

データセンターの急増やAIの普及により、世界の消費電力は加速度的に増大しています。この課題に対して「光」の技術で答えを出そうとしている企業があります。株式会社LightBridgeは、光集積回路の設計シミュレーションから試作支援までを一貫して提供し、フォトニクス技術の社会実装を加速させています。

今回は、モロッコ出身で筑波大学にて工学博士号を取得し、日本でLightBridgeを創業したカトフ ・レドワン博士に、光技術が拓く持続可能な未来と、イノベーション民主化への挑戦について、松尾真希がお話を伺いました。


目次

「技術を世に届けたい」——創業に込めた2つの想い

松尾:本日はよろしくお願いいたします。カトフ博士はモロッコからカナダ、そして日本と、3つの国で研究を重ねてこられたと伺っています。LightBridgeを立ち上げたきっかけを教えていただけますか。

カトフ:よろしくお願いいたします。創業には大きく2つの理由があります。1つは、日本には素晴らしい技術があるのに「製品」にならない現実を目の当たりにしたことです。研究としては成立しているのに、ものづくりに落とし込めないまま、論文で終わってしまう。結果として、世界に届かないケースが多いと感じていました。

松尾:日本の研究力は世界的にも評価が高いですが、社会実装の壁があると。

カトフ:はい。もう1つは、技術をめぐるコミュニケーションのギャップです。当時の日本の光学関連市場では海外ソフトウェアが広く使われていましたが、提供がツール導入中心になりやすく、設計の意思決定に踏み込むような技術的な議論の機会が限られていると感じていました。その結果、同じ技術を扱っても、立場によって前提や使う言葉が異なり、課題の本質が十分に共有されないまま進んでしまうこともあります。私は大学だけでなく研究機関でも研究に携わる中で、同じような課題に直面し、そこに構造的な課題があると感じていました。技術はあるのに、それが十分に使いこなされていない。この点に強い課題意識を持っていました。

松尾:技術を深く理解したうえでビジネスを展開するというのは、まさに研究者ならではの発想ですね。

(右:株式会社LightBridge代表 カトフ ・レドワン博士)


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光で消費電力を劇的に下げる——データセンター時代の切り札

松尾:AIの急速な普及でデータセンターの消費電力が社会課題になっていますが、フォトニクス技術は具体的にどのような形で脱炭素に貢献できるのでしょうか。

カトフ:大きなポイントは、データ伝送の部分を光に置き換えることで、消費電力を大幅に下げられる点です。電気信号は抵抗による損失や発熱が避けられませんが、光はそれに比べて損失が小さく、高速かつ効率的に情報を伝えることができます。特にデータセンターでは通信が電力消費の大きな役割を占めています。そこに光技術を導入することで、消費電力の削減だけでなく、冷却負荷の低減にもつながります。また、光技術の応用はデータセンターに限らず、医療機器や自動運転のセンサーなどにも広がっています。こうした分野でエネルギー効率が向上すれば、結果としてCO2排出量の削減にもつながります。

松尾:消費電力の抑制と、それに伴うCO2排出削減。エネルギー効率の観点から非常に大きな社会的意義がありますね。医療分野への応用というのは、どのようなものですか。

カトフ:例えば、光を使ったセンシングによって、体内の状態を非侵襲で高精度に測定ができるようになってきています。これにより、病気が進行してからではなく、リスクが高まっている段階で異常を検知できる可能性があります。光技術は電気を置き換えるというよりも、それぞれの特性を活かして使い分けられていくと考えています。計算は電気、通信やセンシングは光といった形で、より効率的なインフラが実現していくと思います。


試作コストを10分の1に——MPWがもたらすイノベーションの民主化

松尾:LightBridgeの特長の一つに、設計シミュレーションと海外ファウンドリでの試作を一気通貫で提供されていることがありますね。マルチプロジェクトウェハ(MPW)サービスというのは、どのような仕組みなのでしょうか。

カトフ:光集積回路の試作には通常、数千万円規模のコストがかかります。ただ、1枚のウェハを複数のユーザーで共有することで、そのコストを大幅に下げることができ、場合によっては10分の1程度まで抑えられます。これによって、設計から試作、評価、改善までのサイクルを、現実的なコストで何度も回せるようになります。一度成功させる前提ではなく、試行錯誤しながら開発できるようになる点が大きいと思います。

松尾:大企業だけでなく、スタートアップや大学の研究室でも光の技術開発ができるということですね。

カトフ:そうです。1回の試作に何千万円もかかるとなると、挑戦のハードルはどうしても高くなります。大企業であっても、不確実性の高い段階でその判断をするのは簡単ではありません。MPWはそのリスクを分散し、より多くの人が試作に踏み出せる環境を作ります。アイデアを実際に形にして検証できるようにすることが、私たちの役割だと考えています。

松尾:技術へのアクセスを広げるという考え方は、研究開発の裾野を大きく広げるものですね。

「同じ言葉で話す」——研究者に寄り添う技術支援

松尾:創業から11年、顧客が離れずに継続しているとも伺っています。LightBridgeの強みは、単に製品を販売するのではなく、研究者と同じ言葉で課題を理解できる点にもありますね。

カトフ:そこは大きいと思います。私たちはソフトウェアを紹介するだけではなく、「何を実現したいのか」「どのアプローチが合っているのか」まで一緒に考えます。例えば研究や製品開発をどう進めるかというご相談をいただいた際には、その背景や意図を理解したうえで、別の選択肢をご提案することができます。単にツールを提供するのではなく、研究や開発の文脈に入り込んで議論できるところが、私たちの特徴だと思っています。

松尾:製品のサポートを超えて、研究パートナーとしての関係性を築いているということですね。

明日掲載の後半もお楽しみに!

日野広大

編集長日野

日野広大(ひの こうだい)
「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長。ジャパンSDGsアワード外務大臣賞を受賞した株式会社FrankPRのサステナビリティコンサルタント、気候変動コミュニケーター。
専門は脱炭素経営、サーキュラーエコノミー、SDGsの企業経営への統合。学生時代のボランティアを機に環境問題に目覚め、現在は編集長として、科学的根拠と実用性を両立した情報発信を行う。
複雑なテーマを、データと自身の経験に基づいた身近な解説で「初めて理解できた」と読者から高い評価を得ている。単なる問題提起に留まらず、読者が「今日からできるアクション」を見つけられる、具体的で希望の持てる解決策を伝えることを信条とする。

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