こんにちは、「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長の日野広大です。
「AIに仕事が奪われる」という話、皆さんも一度は耳にしたことがあると思います。弁護士や会計士といった、いわゆる「ホワイトカラー」の仕事が危ない、と。
そんな中、11月2日の日経新聞に、その未来を予感させる衝撃的な記事が掲載されました。
アメリカでは今、「ブルーカラービリオネア」という現象が起きています。AIに仕事を奪われ始めた弁護士が苦笑する横で、ポルシェに乗った音響装置の修理技師が数千ドルの修理代を請求していく。
これは、【用語解説】SDGsとは?17のゴールと169のターゲットを徹底解説! が掲げる目標4「質の高い教育をみんなに」や目標8「働きがいも経済成長も」のあり方そのものが、AIによって根本から変わろうとしているサインかもしれません。
こんな人におすすめです
- AIの発展で、自分の仕事がなくなるのではないかと不安な方
 - お子さんの進路や「本当に価値のある教育」について悩んでいる保護者の方
 - これからの「働きがい」や「スキルの価値」について知りたい方
 - SDGsとテクノロジーの未来に関心がある方
 
「ブルーカラービリオネア」とは何か?
[Image: 配管工や電気技工士が自信を持って作業している様子]
「ブルーカラービリオネア」とは、必ずしも本当の億万長者というわけではなく、AIの発展で一般のホワイトカラーの稼ぐ機会が減る一方で、技能を持つブルーカラー(技能工)の労働者が豊かになるチャンスが膨らんでいる状況を指す言葉です。
AIに代替されない「現場のスキル」
なぜ、こんな逆転現象が起きているのでしょうか?
理由は単純です。AIには代替できない、熟練した技能と経験が求められるからです。
- ある弁護士は、AIがリサーチ業務を代行するようになり、顧客への請求額が低下したと嘆いています。
 - 一方で、水道管の水漏れ修理に来た配管工は、たった2時間の作業で800ドル(約12万円)を請求します。
 - テキサス州で空調整備会社を営む卒業生は、「セ氏40度の屋根裏での作業や床下での細かな手作業」を挙げ、「AIが我々の仕事を肩代わりすることは絶対にできない」と断言しています。
 
大学より「職業訓練校」が人気に
この流れは教育現場にも直結しています。
- テキサス州のある職業訓練学校では、過去1年間で入学者が20%も増加しました。年間費用は私立大学の10分の1ほどで、2年で修了でき、卒業生は企業から引く手あまたです。
 - 対照的に、経営学を専攻したある大学生は、2000社に履歴書を送っても就職先が見つかっていません。
 - コンピューターサイエンス専攻の学生でさえ、AIがコード作成を担うようになり「仕事が全然ない」と嘆いています。
 
米労働省の統計では、エレベーター・エスカレーターの設置・修理工の年間所得は中間値で約1600万円に上り、その多くは高卒です。知識階級が大金持ちになるという常識が崩れつつあるのです。
なぜこれがSDGsにとって重要なのか?
この「ブルーカラービリオネア」現象は、SDGsの達成において非常に重要な示唆を与えてくれます。
SDGs目標4.4:「技術的・職業的スキル」の真の価値
[Image: SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」のアイコン]
私たちは「質の高い教育」というと、つい「4年制大学」をイメージしてしまいがちです。しかし、SDGs目標4のターゲット4.4は、「技術的・職業的スキルを持つ人々を大幅に増やす」ことを掲げています。
まさに今、アメリカで起きているのは、「大学の学位」よりも「現場の職業スキル」が経済的価値を持ち始めたという現実です。これは、SDGsゴールの4.4実現への道: 技術的・職業的スキル強化の重要性 が目指す社会への転換点かもしれません。
SDGs目標8:「エッセンシャルワーカー」という働きがい
[Image: SDGs目標8「働きがいも経済成長も」のアイコン]
米フォード・モーターのCEOは、AIがホワイトカラーの半分を置き換える可能性に言及しつつ、AIにはできない技術者を「エッセンシャルワーカー」と呼び、その役割がますます求められると発言しました。
AI時代における「働きがい」とは、AIに指示されることではなく、AIにはできない「人間にしかできない仕事」を担う誇りにあるのかもしれません。
SDGs目標10:「格差」の逆転
これまで「学歴」は、経済格差を生む大きな要因の一つでした。しかし、この現象は、その常識を覆しています。
高額な学費を払って大学を卒業しても職にあぶれ、職業訓練を受けた技能工が高収入を得る。
これは、SDGs「10-3. 機会均等の確保、成果の不平等の是正」 の観点から見ると、非常に興味深い「格差の逆転」と言えます。政府が奨学金の対象を職業訓練プログラムにも拡大した のも、この流れを後押ししています。
日野広大の視点:脱炭素社会を支える「現代の職人」
[Image: 太陽光パネルを設置する技術者]
私がこのニュースで最も重要だと感じたのは、これらの「技能工」こそが、私たちが目指す「脱炭素社会」の実現に不可欠な主役だという点です。
記事に登場した「冷暖房空調整備技師(HVAC)」や「電気技工士」 を想像してみてください。
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すべて、AIではなく「人間の技能工」です。
AIがどれだけ賢くなっても、猛暑の屋根裏で汗だくになって作業し、私たちの快適で持続可能な生活を物理的に支えてくれるのは、人間の「手」です。彼らは、脱炭素社会を最前線で支える「現代の職人」なのです。
私たちにできること:今日から考える3つのアクション
この大きな変化の波は、対岸の火事ではありません。
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まとめ
AIが発展するほど、皮肉にも「人間にしかできないこと」の価値が際立ってきています。「ブルーカラービリオネア」現象は、その価値が「経済」に正しく反映され始めた証拠です。
これが一時的なものか、普遍的なものか、記事は問いかけています。私は、持続可能な社会を「現場」で実現するために、この傾向は続くと信じています。

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