NYを揺るがす抹茶不足:一杯のラテから見える気候変動とSDGsのリアル

こんにちは。「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長の日野広大です。私たちのメディアは、SDGs達成に向けた企業の優れた取り組みを評価する「ジャパンSDGsアワード」で外務大臣賞を受賞するなど、政府SDGs推進本部からもその専門性を認めていただいております。

今回は、ニューヨークから届いた「抹茶不足」というニュースを深掘りします。一見、華やかなブームの裏側の話に見えますが、実はこれは気候変動、持続可能な農業、そして私たちの未来の食卓に直結する、SDGsの観点から非常に重要なシグナルです。

この記事でわかること

  • なぜニューヨークのカフェで抹茶ラテが小さくなったのか?
  • 世界的抹茶ブームの裏に潜む「気候変動」という深刻な要因
  • 一杯の抹茶からSDGs目標(13, 12, 8)との繋がりを読み解く
  • 私たちの「おいしい」を守るために、明日からできること

目次

世界的抹茶ブームの裏側で起きている「供給ショック」

ブルームバーグの報道によると、世界的な抹茶ブームによる需要急増に供給が追いつかず、ニューヨークの一部のカフェでは抹茶ラテのサイズを25%小さくしたり、価格を最大30%引き上げたりする事態に陥っています。

「需要のすべてに応えきれていない」
(ニューヨークの抹茶専門店「Matchaful」創業者 ハンナ・ヘイブス氏)

この言葉は、ブームの熱狂の裏で、生産現場が悲鳴を上げている現実を物語っています。日本の供給元の中には、一部商品の価格を200%も引き上げたケースもあると報じられており、事態の深刻さがうかがえます。

これは単なる人気商品の品薄問題ではありません。抹茶という繊細な農産物を通して、私たちのグローバルな食料供給システム(サプライチェーン)の脆弱性が浮き彫りになった事例と言えるでしょう。

なぜ抹茶は足りないのか?気候変動が伝統農業に与える深刻な影響

抹茶不足の根本的な原因は、急激な需要増だけではありません。最大の輸出国である日本が直面する、より構造的な課題が存在します。

「異常気象」が奪う収穫量:静岡の茶農家が直面する現実

抹茶の原料となる「てん茶」は、日光を遮って栽培するなど、非常に手間のかかる伝統農法で育てられます。しかし、近年の気候変動はこの繊細な生産プロセスを直撃しています。

ニュースで紹介された静岡県の供給元、服部吉明氏の農園では、近年の異常な高温などの影響で昨年の収穫量が約25%も減少したといいます。これは衝撃的な数字です。気候変動はもはや遠い国の話や未来の課題ではなく、日本の伝統産業の存続を揺るがし、私たちの食生活に直接影響を与える「現在の危機」なのです。

手間暇かかる伝統製法と限られた生産地

高品質な抹茶は、丁寧に育てられた茶葉を石臼でゆっくりと挽くなど、大量生産が難しい特性を持っています。生産地も限られており、急な需要増に柔軟に対応することが困難です。

この「生産の非効率性」は、文化的な価値や品質を維持するためには不可欠な要素です。しかし、それが気候変動という外部からの圧力と組み合わさることで、供給のボトルネックをより深刻なものにしています。

抹茶不足は他人事ではない。SDGsの視点で読み解く食の未来

このニュースをSDGsのフレームワークで読み解くと、3つの重要な目標との関連が見えてきます。

SDGs 13「気候変動に具体的な対策を」:私たちの選択が食卓を脅かす

今回の抹茶不足は、気候変動が食料生産に与える影響の典型例です。気温上昇、異常気象は、茶葉だけでなく、米、小麦、コーヒー豆など、あらゆる農産物の収穫量や品質を不安定にさせます。私たちが日々の生活で排出する温室効果ガスが、巡り巡って愛する産品の価格高騰や供給不足を招いている。この繋がりを自分事として捉えることが、気候変動対策の第一歩です。

SDGs 12「つくる責任 つかう責任」:持続可能な農業への転換は急務

需要が急増したからといって、化学肥料や農薬を多用して無理に生産量を増やせば、土壌は疲弊し、生態系は破壊され、長期的にはさらに生産性を損なうことになります。
生産者は環境への負荷が少ない農法へ転換し、私たち消費者は、価格の安さだけでなく、その背景にある生産方法の持続可能性を評価し、選択することが求められます。フェアトレード認証や有機JAS認証のような、持続可能性に配慮した製品を選ぶことも具体的なアクションの一つです。

SDGs 8「働きがいも経済成長も」:生産者の暮らしを守るために

気候変動による収穫減は、茶農家の収入を直接脅かします。適正な価格で取引が行われなければ、生産者は気候変動に適応するための設備投資(例えば、日よけの高度化など)もできず、後継者不足も相まって廃業に追い込まれかねません。
私たちが支払う一杯の抹茶ラテの価格には、日本の美しい茶畑の景観と、それを支える生産者の生活を守るための対価も含まれているべきなのです。

私たちにできること:明日の「おいしい」を守るためのアクション

この問題を前に、私たち一人ひとりに何ができるでしょうか。

  • 知る・選ぶ: 商品の背景を知り、持続可能な農法やフェアな取引を実践している生産者を応援する。少し高くても、その価値を理解して選ぶことが、未来への投資になります。
  • 伝える: なぜこの商品を選ぶのか、その理由を家族や友人と話してみましょう。一杯の抹茶ラテをきっかけに、気候変動やSDGsについて考える輪を広げることができます。
  • 無駄にしない: すべての食料は、貴重な資源と多くの人々の労働によって作られています。食品ロスをなくすことは、生産現場への負荷を減らし、環境保全に繋がる重要な行動です。

まとめ

ニューヨークの抹茶ブームと供給不足のニュースは、私たちの嗜好品が、地球環境や遠く離れた生産者の生活と密接に結びついていることを教えてくれます。

この一杯が象徴するのは、気候変動という大きな課題に直面する伝統産業の苦悩と、持続可能な生産と消費の重要性です。抹茶ブームを単なる流行で終わらせず、私たちの食の未来、そして地球の未来を考えるきっかけとすることが、今を生きる私たちに求められています。


執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大 参考資料: Bloomberg「NYC Matcha Cafe Shrinks Cup Size to Offset Shortage, Price Hikes」


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