脱炭素とSDGsの知恵袋、編集長の日野広大です。私たちのメディアは、ジャパンSDGsアワードで外務大臣賞を受賞したFrankPRが運営しており、その知見を基にSDGsに関する信頼性の高い情報を発信しています。
今回は、世界的なファッション企業SHEINが「グリーンウォッシュ」を理由に巨額の罰金を科されたニュースを深掘りします。この一件は、単なる海外企業の不祥事ではなく、SDGs時代の企業のあり方と、私たち消費者の役割を考える上で極めて重要な示唆に富んでいます。
この記事では、以下の点について専門家の視点から徹底的に解説します。
- ニュースの核心: SHEINになぜ70億円もの罰金が科されたのか?
- 専門家が解説: 「グリーンウォッシュ」の巧妙な手口とその見抜き方
- SDGsの視点: この問題が示す、ファッション業界の根深い課題
- 私たちの行動: 賢い消費者として、明日からできること
70億円の罰金、SHEINに何が起きたのか?ニュースの核心
2025年夏、ファッション業界に衝撃的なニュースが駆け巡りました。超ファストファッションブランドとして知られるSHEINに対し、フランスとイタリアの規制当局が、合計で約70億円(フランス約68.4億円、イタリア約1.7億円)という巨額の罰金を科したのです。
その理由は、同社のウェブサイトにおける環境配慮に関する表示が「グリーンウォッシュ」にあたる、と判断されたためです。
具体的には、以下のような点が問題視されました。
- 曖昧で誤解を招く表現: 「グリーンな繊維」といった言葉を使いながら、製品のライフサイクル全体における環境メリットを具体的に示していなかった。
- 過度な一般化: 環境配慮型とされる「evoluSHEIN by Design」シリーズが、ブランド全体に占める割合はごく僅かであるにもかかわらず、その事実を明確にせず、あたかも企業全体で取り組んでいるかのように見せていた。
- 不正確な主張: 製品が完全にリサイクル可能であるかのような誤解を与える表現があった。
これは、企業が環境に良い取り組みをしていると見せかけ、実態以上に自らを「緑色(グリーン)」に塗りたくる(ウォッシュ)行為そのものです。規制当局は、こうした行為が消費者の公正な商品選択を妨げる欺瞞的な商業慣行であると厳しく断じました。
グリーンウォッシュとは?専門家が解説するその手口と見抜き方
グリーンウォッシュは、SDGsへの関心が高まる現代社会において、企業が陥りがちな罠であり、消費者が警戒すべき巧妙なマーケティング手法です。
その手口は、SHEINの事例のように「良い部分だけを切り取って全体像のように見せる」以外にも、いくつか典型的なパターンがあります。
- 証拠のない曖昧な主張: 「環境にやさしい」「エコフレンドリー」など、具体的な根拠を示さずに漠然としたイメージだけで訴求する。
- 隠されたトレードオフ: 例えば「リサイクル素材を使用」と謳いながら、その製造工程で大量の水やエネルギーを消費している事実を隠す。
- 無関係な情報の強調: 製品の本質的な環境負荷とは関係のない、小さな美点をことさらに強調する。
- 虚偽の認証ラベル: 公的な認証機関のものと見せかけた、自社製のニセの「エコラベル」を使用する。
なぜ企業はグリーンウォッシュに走るのか?
この背景には、ESG投資の拡大や、環境意識の高い消費者(エシカルコンシューマー)の増加があります。企業にとって、環境への配慮は企業価値を左右する重要な経営課題となりました。
しかし、サプライチェーン全体での環境負荷低減やビジネスモデルの変革には、多大なコストと時間がかかります。そのため、一部の企業は、実質的な改革を行う代わりに、表面的なイメージ操作、つまりグリーンウォッシュに走ってしまうのです。
消費者庁も警鐘:日本の現状と対策
この問題は、日本にとっても他人事ではありません。日本の消費者庁も、2023年に「景品表示法上の問題となる環境に関する表示」についてのガイドラインを改定し、グリーンウォッシュへの監視を強めています。
国際的な潮流として、EUではさらに厳格な「グリーン・クレーム(環境主張)指令」の導入が進められており、科学的根拠のない環境主張は今後、欧州市場から締め出されることになります。日本企業も、グローバル市場でビジネスを行う以上、この基準に対応していく必要があります。
SDGsの視点から読み解くSHEIN問題の根深さ
この一件をSDGsのフレームワークで捉えると、その問題の根深さがより明確になります。
目標12「つくる責任 つかう責任」への裏切り
今回の事案は、まさにSDGs目標12「つくる責任 つかう責任」の核心に触れる問題です。この目標は、企業に対して持続可能な生産方法を求めると同時に、消費者にも持続可能な消費を促しています。
SHEINの行為は、正確な情報提供という「つくる責任」を放棄し、消費者が適切な選択をする機会を奪うものであり、目標12の精神に真っ向から反するものです。
安さの裏にある環境・人権コスト
SHEINに代表される超ファストファッションは、そのビジネスモデル自体が多くの課題を抱えています。
- 環境負荷: 安価な合成繊維の大量生産は、製造時のCO2排出や、洗濯時に流出するマイクロプラスチックによる海洋汚染(目標14)につながります。過剰な生産と消費は、大量の衣類廃棄物を生み出します。
- 人権問題: 元記事でも示唆されている通り、極端な低価格を実現する裏側には、生産国における劣悪な労働環境や強制労働(目標8)といった人権上のリスクがしばしば指摘されています。
私たち消費者は、目の前の価格だけでなく、その裏に隠された「見えないコスト」(環境コスト、社会コスト)にも目を向ける必要があります。
賢い消費者になるために 私たちにできること
企業の姿勢を変える最も大きな力は、私たち消費者の選択です。グリーンウォッシュに騙されず、真にサステナブルな社会を応援するために、明日から実践できるアクションを提案します。
- 「本当に必要か?」を問う: 服を買う前に一呼吸おき、手持ちの服とのコーディネートや着回しを考えてみましょう。「安いから」ではなく「長く大切に着たいから」という基準を持つことが第一歩です。
- 言葉より「根拠」をチェック: 「エコ」「グリーン」といった漠然とした言葉に惑わされず、具体的な数値や事実を確認しましょう。
- リサイクル素材なら、具体的に何が何%使われているか?
- GOTS(オーガニックテキスタイル世界基準)やエコマークなど、信頼できる第三者認証があるか?
- 企業のウェブサイトを深掘りする: 企業の公式サイトにある「サステナビリティ」や「CSR」のページを見てみましょう。
- 抽象的な美辞麗句だけでなく、具体的な目標(KPI)や進捗報告が公開されているか?
- サプライチェーンにおける人権デューデリジェンスの報告はあるか?
これらは、企業の真摯な姿勢を見極める重要な指標となります。弊社FrankPRでも、こうした企業の非財務情報開示の重要性を一貫して訴えています。
- 一つの服を長く愛する: 衣服の寿命を延ばすことも、重要なアクションです。修理やリメイクを楽しんだり、古着を上手に活用したりすることで、環境負荷を大きく減らすことができます。
まとめ:企業の真価が問われる時代へ
SHEINへの巨額の罰金は、グリーンウォッシュという行為がもはや許されないという、社会からの明確なシグナルです。SDGsが世界の共通言語となった今、企業は目先の利益やイメージ戦略ではなく、事業の根幹からサステナビリティを追求する「真の変革」が求められています。
そして私たち消費者も、ただ商品を受け取るだけの存在から、企業の姿勢を評価し、選択を通じてより良い社会を形作る責任ある主体へと変わる必要があります。
この記事が、皆さんの明日からの消費行動を考える一助となれば幸いです。
執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大
参考資料:オルタナ「SHEINに仏伊政府が70億円もの「グリーンウォッシュ」罰金」
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