脱炭素とSDGsの知恵袋、編集長の日野広大です。私たちの運営母体であるFrankPR株式会社は、ジャパンSDGsアワードで外務大臣賞をいただくなど、SDGs推進に関する専門的な知見を有しています。今回は国連が発表した最新の報告書から、世界の飢餓の現状とSDGs達成に向けた課題を掘り下げて解説します。
2025年7月28日に発表された国連の「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)」報告書は、一見すると希望の持てる数字を示しました。しかし、その詳細を読み解くと、深刻な地域格差と根深い課題が浮き彫りになります。
- 世界の飢餓人口の動向:明るい兆しと残る課題
- なぜ地域で明暗が?南米・南アジアの改善とアフリカの危機
- 飢餓を加速させる二大要因:「紛争」と「気候変動」
- SDGs目標2「飢餓をゼロに」達成のために私たちができること
国連報告書が示す世界の飢餓の現状:数字の裏側を読む
今回、国連食糧農業機関(FAO)などが発表した報告書によると、2024年の世界の飢餓人口は約6億7,300万人。これは世界人口の8.2%にあたり、3年連続の減少となります。新型コロナウイルス流行期に急増した飢餓人口が、着実に減少傾向にあることは間違いなく良いニュースです。
しかし、私たちはこの数字を楽観視することはできません。なぜなら、パンデミック前の2019年の水準(7.5%)には依然として及んでいないからです。これは、世界がコロナ禍の打撃から完全に回復するには、まだ道半ばであることを示しています。
ニュースのポイント
- 2024年飢餓人口: 約6億7,300万人(世界人口の8.2%)
- 傾向: 3年連続で減少したが、コロナ禍前の2019年(7.5%)よりは高い水準。
- 出典: ロイター「世界の24年の飢餓人口は6.7億人、3年連続で減少=国連報告」
重要なのは、この「世界の平均値」の裏で、深刻な地域格差が拡大しているという事実です。
なぜ飢餓人口は地域によって差が開くのか?
今回の報告書で最も注目すべきは、飢餓の状況が地域によって大きく異なる点です。これは、世界の飢餓問題が、食料の絶対量の問題だけでなく、分配、アクセス、そして平和や安定といった複合的な要因によって引き起こされていることを明確に示しています。
改善が見られた南米・南アジア
南米では飢餓人口の割合が前年の4.2%から3.8%に、南アジアでは12.2%から11%へと顕著に改善しました。
報告書は、この背景に以下のような要因を挙げています。
- 南米: 農業生産性の向上に加え、学校給食制度のような社会的なセーフティネットが機能したこと。
- 南アジア: 特にインドにおいて、より多くの人々が健康的な食事を入手できるようになったこと。
これらの地域の成功事例は、農業への投資と、最も脆弱な立場の人々を支える社会政策の組み合わせがいかに重要かを示しています。
一方で深刻化するアフリカ・西アジア
対照的に、アフリカの大部分と西アジアでは、飢餓と栄養失調がより深刻化しています。アフリカでは人口の5分の1以上にあたる約3億700万人が慢性的な栄養不足にあり、この数字は20年前よりも悪化しています。
報告書は、このままでは2030年までに、世界の飢餓人口の約6割をアフリカが占めるという衝撃的な予測を示しました。世界全体では飢餓が減っているにもかかわらず、アフリカだけが取り残されていく「不都合な真実」がここにあります。
飢餓を生む2大要因:「紛争」と「気候変動」の深刻な影響
では、なぜアフリカや西アジアで飢餓が悪化し続けているのでしょうか。報告書は、その最大の要因として「紛争」と「気候変動」を挙げています。
紛争:平和なくして食料なし
国連のグテレス事務総長が「紛争はガザからスーダン、およびそれを超えて飢餓を拡大させ続けている」と指摘するように、紛争は食料システムのすべてを破壊します。農地は荒廃し、市場は機能不全に陥り、支援物資の輸送路は絶たれます。人々は家を追われ、農業を続けることもできません。
今回の報告書は、ガザのような最新の紛争地域の状況を完全には反映できていない可能性があることにも触れており、実際の状況はさらに深刻であると考えられます。これは、SDGs目標16「平和と公正をすべての人に」の達成なくして、目標2「飢餓をゼロに」の達成はあり得ないことを示しています。
気候変動:食料生産の基盤を揺るがす
干ばつ、洪水、異常気象といった気候変動の影響は、特に農業に依存する地域の食料生産を直撃します。アフリカの多くの地域は、気候変動に対して極めて脆弱であり、安定した食料生産が年々困難になっています。
食料問題は、SDGs目標13「気候変動に具体的な対策を」とも密接に結びついています。脱炭素社会への移行は、遠い国の環境問題ではなく、世界中の人々の「食」を守るための喫緊の課題なのです。
SDGs目標2「飢餓をゼロに」達成への道筋と日本の役割
2030年までに「飢餓をゼロに」という目標達成は、残念ながら厳しい道のりです。しかし、諦めるわけにはいきません。今回の報告書は、私たちに進むべき道を示唆しています。
- 紛争の解決と平和構築への貢献: 飢餓の根本原因である紛争をなくすための外交努力や人道支援が不可欠です。
- 気候変動に強い農業への投資: アフリカなどが気候変動に適応できるよう、技術支援や資金援助を進める必要があります。
- 社会制度の強化: 南米の例に見られるように、学校給食や食料支援など、最も弱い立場の人々を守るセーフティネットを世界中に広げることが重要です。
私たちFrankPRの事業においても、サプライチェーンにおける人権配慮や環境負荷の低減をクライアント企業と共に考える機会が多くありますが、まさに食料・人権・気候変動は不可分のテーマだと実感しています。
日本に住む私たちにできることもあります。
- フードロスをなくす: 世界では食料が足りない一方で、日本では年間500万トン以上もの食料が廃棄されています。まずは足元の食料廃棄を減らすことが、世界全体の食料需給について考える第一歩です。
- 正しい情報を知り、広める: なぜ飢餓が起こるのか、その背景にある紛争や気候変動、構造的な問題に関心を持つことが重要です。
- 信頼できる団体への寄付: 国連WFP(世界食糧計画)など、最前線で活動する団体への支援も有効なアクションです。
まとめ
今回の国連報告書は、世界の飢餓問題が「全体の平均点」だけでは測れない、複雑で多面的な課題であることを改めて浮き彫りにしました。南米や南アジアでの改善という希望の光がある一方で、紛争や気候変動の影響を受けるアフリカでは、危機が深まっています。
SDGs目標2「飢餓をゼロに」の達成は、単一の解決策では不可能です。平和の実現(目標16)、気候変動対策(目標13)、貧困削減(目標1)など、すべての目標が連動しています。食料が公平に、そして持続可能な形で全ての人に行き渡る世界を実現するために、私たち一人ひとりがこの問題を「自分ごと」として捉え、行動していくことが求められています。
執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大 参考資料:
- ロイター「世界の24年の飢餓人口は6.7億人、3年連続で減少=国連報告」
- 国連食糧農業機関(FAO)「世界の食料安全保障と栄養の現状(SOFI)」報告書
コメント