農協は本当に“悪”なのか?SDGs視点で考える「日本の農業崩壊」と食料安全保障の未来

こんにちは。「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長の日野広大です。私たちのメディアは、SDGs推進への貢献が認められ、政府SDGs推進本部よりジャパンSDGsアワード「外務大臣賞」をいただいた企業の知見を基に、信頼性の高い情報発信を心がけています。

「農協は農家から搾取する悪の組織」――。こうしたイメージを耳にしたことはないでしょうか。しかし、現場の農家からは全く異なる声が聞こえてきます。今回は、東大卒の米農家・米利休氏の指摘をきっかけに、この複雑な問題をSDGsの視点から深掘りし、日本の農業と私たちの食卓の未来について考えます。

この記事でわかること

  • 「農協=悪」というイメージの真相
  • 日本の農業が直面する本当の構造的課題
  • SDGsから見た、持続可能な農業の必要性
  • 私たち消費者が日本の農業を支えるためにできること

目次

「農協=搾取」は本当?現場の農家が語る意外な実態

メディアでは時に批判的に描かれる農協ですが、米利休氏は著書の中で「農協があるから日本の農業が成り立っている側面がある」と断言しています。多くの農家、特に生産で手一杯な農家にとって、農協は不可欠なパートナーなのです。

全量買取が支えるセーフティネット

農家にとって最大のメリットは、農協が「規格外を除いて全量買い取ってくれる」ことです。丹精込めて作った作物を、確実に販売できるという安心感は、経営の土台となります。個人で販路をゼロから開拓する労力とリスクを考えれば、このセーフティネットの価値は計り知れません。

手数料5%以下のパートナーシップ

米利休氏によれば、農協の販売手数料は市場価格の5%以下だといいます。これは、一般的な商取引の手数料と比較しても、決して「搾取」と呼べるものではないでしょう。むしろ、種や肥料の供給、営農指導、事業資金の融資まで担う農協は、多くの農家にとって共に生き残るための重要なパートナーなのです。

(引用)「多くの農家が生き残るために、農協は必要な組織だと僕は考えています。…農協とはもちつもたれつでうまく付き合っていくことが、生き残る上でも重要です。」
出典:米利休氏『東大卒、じいちゃんの田んぼを継ぐ』(KADOKAWA) / ゴールドオンライン掲載記事より


真の課題はどこに?国際比較で見る日本の農業政策

では、なぜ日本の農家は厳しい状況に置かれているのでしょうか。米利休氏は、その原因を農協ではなく、国の政策、特に手薄な公的助成にあると指摘します。

欧州90% vs 日本30% – 補助金が示す国の姿勢

農業所得に対する公的助成の割合は、その国の農業を保護する姿勢を如実に表します。

  • ヨーロッパ諸国: 90%以上(スイスは100%超)
  • 日本: 30%程度

これは、ヨーロッパの農家が「売上が少なくても、収入のほとんどを国が保障してくれる」のに対し、日本の農家は「収入の7割以上を自力で稼がなければならない」ことを意味します。どちらが持続的に農業を続けやすいかは、火を見るより明らかです。

世界の農業所得に占める補助金割合の比較グラフ
図表挿入候補:日本とEU、スイスなどの「農業所得に占める公的助成の割合」を比較する棒グラフ。alt属性案:「日本と欧米における農業補助金の割合比較」

「自己責任論」では守れない日本の食卓

「儲かっている農家もいるのだから、儲からないのは自己責任だ」という意見もあります。しかし、日本の農家のうち約4分の3が兼業農家(農林水産省 2020年農林業センサス)という事実が、農業だけで生計を立てることの難しさを物語っています。

個人の努力だけに頼る「自己責任論」で農業従事者が減り続ければ、日本の食料自給率はさらに低下し、食料安全保障が根底から揺らぎかねません。これは国民全体の生活に関わる重大な問題です。


SDGsから考える持続可能な農業の未来

この問題は、SDGsの複数の目標と深く関わっています。

  • 目標2: 飢餓をゼロに: 農家の経営安定なくして、食料の安定供給(食料安全保障)はあり得ません。持続可能な農業は、まさにこの目標の根幹です。
  • 目標8: 働きがいも経済成長も: 農業が、次世代が夢を持って就ける「ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」となるためには、経済的に報われる構造が必要です。
  • 目標12: つくる責任 つかう責任: 生産者が生活を維持できる「適正価格」での取引は、持続可能な生産と消費に不可欠です。

現在、日本政府は「みどりの食料システム戦略」を掲げ、環境負荷の低減と生産性向上を両立させる持続可能な農業を目指しています。しかし、この戦略を現場で実現するためには、高齢化が進む農家が安心して挑戦できるような、より手厚い支援策や経済的インセンティブが不可欠でしょう。


私たち消費者にできること – 「選ぶ」ことで農業を支える

国の政策も重要ですが、私たち消費者の行動も、日本の農業の未来を左右する力を持っています。

  • 地元の農産物を買う: 直売所やスーパーの地産地消コーナーを利用することは、輸送エネルギーを削減(脱炭素)し、地域の農家を直接応援することに繋がります。
  • 生産者の顔が見える商品を選ぶ: 商品の背景にあるストーリーや生産者の想いを知り、共感できるものを選ぶ。その少しの手間が、生産者の大きな励みになります。
  • フードロスをなくす: 食べ物を無駄にしないことは、生産者の努力を尊重し、環境負荷を減らす重要なアクションです。
  • 「適正価格」を意識する: 安さだけを求めるのではなく、なぜその価格なのかを考え、持続可能な生産を支えるためのコストが含まれていることを理解することも大切です。

まとめ:農協批判の先に見るべき、日本の農業の未来像

「農協=悪」という単純なレッテル貼りは、問題の本質を見誤らせます。多くの農家にとって農協は重要なパートナーであり、真の課題は、国際的に見て手薄な公的支援や、高齢化が進む現場の実態といった、より大きな構造にあります。

持続可能な農業、そして私たちの食卓の未来を守るためには、国、農協、農家、そして私たち消費者が、それぞれの立場で役割を果たし、連携するパートナーシップ(SDGs目標17)が不可欠です。次にスーパーで野菜を手に取るとき、その向こう側にいる生産者の生活や、日本の農業が置かれた現実に、少しだけ思いを馳せてみてはいかがでしょうか。


執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大
参考資料:

  • 米利休『東大卒、じいちゃんの田んぼを継ぐ 廃業寸前ギリギリ農家の人生を賭けた挑戦』(KADOKAWA)
  • ゴールドオンライン掲載記事(2025年7月21日)
  • 農林水産省「農林業センサス」「食料・農業・農村白書」「みどりの食料システム戦略」
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