こんにちは。「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長の日野広大です。私たちのメディア運営元であるFrankPRは、SDGsへの貢献が評価され、政府SDGs推進本部より「ジャパンSDGsアワード」外務大臣賞をいただいた実績があります。その専門的知見から、今回は日本のエネルギー安全保障と脱炭素の未来に警鐘を鳴らす、極めて重要なニュースを解説します。
2025年6月24日に内閣府の原子力委員会が取りまとめた「原子力白書」で、日本の原子力関連企業のほぼ全てが、遅くとも10年以内に深刻な「技能継承の困難」に直面するという衝撃的な事実が明らかになりました。これは単なる人手不足ではなく、日本のエネルギー政策の根幹を揺るがしかねない構造的な課題です。この記事では、この問題の本質と、SDGsの視点から私たちが取るべき対策について深掘りします。
- 本記事のポイント
- 原子力白書が示す、衝撃的な人材・技能不足の実態
- なぜ今、この問題が日本のエネルギー安全保障と脱炭素を脅かすのか
- 世界的な潮流と、日本の課題
- SDGsの視点で考える、持続可能な解決策とは
崖っぷちの原子力業界:ほぼ全社が「10年以内の技能継承困難」を懸念
今回発表された2024年度版「原子力白書」で示されたデータは、現場の危機感を如実に物語っています。
大手電力9社と原発関連メーカー7社の計16社を対象に、経験や技能の継承が難しくなる時期を調査したところ、15社が10年以内と回答した。
(出典: 毎日新聞 2025/6/24)
この「15社」という数字の内訳はさらに深刻です。
- 「現在すでに困難」:7社
- 「5年以内に困難」:5社
- 「10年以内に困難」:3社
つまり、調査対象の9割以上が、極めて近い将来にベテランの持つ高度な技術や知見が失われるリスクを抱えているのです。また、日本原子力産業協会の別調査では、関連企業215社のうち約7割が必要な人材を確保できておらず、約2割は必要数の半分以下しかいないという、まさに「待ったなし」の状況が浮き彫りになりました。
これは、日本のエネルギーを支えるSDGs目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」や、産業基盤の維持に関わるSDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の達成を根底から揺るがす事態と言えるでしょう。
なぜ今、人材不足が深刻なのか?福島の事故から続く構造的課題
この問題の根源は、2011年の東京電力福島第一原発事故以降、原子力分野全体のイメージ低下や、新規採用の停滞が長期にわたって続いていることにあります。
「安定供給」と「安全性」の両輪を失うリスク
原子力発電は、一度トラブルが起きれば甚大な被害につながるため、極めて高度な運転・保守管理技術が求められます。この技術は、長年の経験を通じて培われる「暗黙知」や「職人の勘」のような部分も多く、マニュアルだけで継承できるものではありません。
人材不足と技能継承の停滞は、日常的なメンテナンスの質の低下を招き、ひいては原子力発電の安全性そのものを脅かすリスクを増大させます。
脱炭素の選択肢は維持できるのか?エネルギー基本計画との矛盾
政府は「エネルギー基本計画」において、2050年カーボンニュートラル達成に向け、安全確保を大前提に原子力を最大限活用する方針を掲げています。しかし、その担い手である人材がいなければ、この計画は「絵に描いた餅」になりかねません。
既存原発の再稼働や、将来的な次世代革新炉の開発・導入も、それを支える強固な人材基盤とサプライチェーン(部品供給網)があって初めて成り立ちます。政策と現場の間に生じたこの大きなギャップこそ、私たちが向き合うべき本質的な課題なのです。
世界も直面する同様の課題 – 英国の事例から学ぶべきこと
この問題は日本特有のものではありません。白書でも指摘されている通り、欧米でも同様の課題に直面しています。
例えば英国では、原発新設にあたり、2030年までに4万人の新規雇用が必要だと政府が試算し、国家レベルでの大規模な人材育成投資計画を発表しています。これは、エネルギー安全保障と脱炭素化の実現には、未来への人的投資が不可欠であるという強い決意の表れです。日本もこの動きを他山の石とし、より積極的な対策を講じる必要があります。
私たちが取り組むべき対策とは?SDGsの視点から考える解決策
この危機を乗り越え、持続可能なエネルギーの未来を築くためには、SDGsの多角的な視点からのアプローチが不可欠です。
多様性の確保:女性活躍とIT導入の重要性 (SDGs 5, 9)
原子力委員会が指摘するように、「女性の参画」は喫緊の課題です。これはSDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」にも合致します。多様な視点を取り入れることで、硬直化した組織文化を刷新し、新たなイノベーションを生む土壌が育まれます。
また、AIやIoTなどのデジタル技術(IT)を活用し、ベテランの技能をデータ化して若手に継承する「デジタルツイン」のような取り組みも、SDGs目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の一環として極めて重要です。
次世代への投資:魅力あるキャリアとしての再構築 (SDGs 4, 8)
最も重要なのは、原子力分野が次世代にとって魅力的なキャリアパスとなるよう再構築することです。
- 質の高い教育の提供(SDGs 4): 大学や専門学校との連携を強化し、最先端の知識と技術を学べる教育プログラムを充実させる。
- 働きがいのある環境整備(SDGs 8): 安全で、かつ正当な評価と成長機会のある職場環境を整備し、「日本のエネルギーと環境を守る」という使命感を醸成する。
まとめ:これは「対岸の火事」ではない。エネルギーの未来を担う人材をどう育てるか
今回明らかになった原子力業界の人材危機は、単なる一産業の問題ではありません。私たちが毎日使う電気の安定供給、そして国が掲げる脱炭素社会の実現という、私たちの生活と社会の未来そのものに関わる重大な警告です。
福島第一原発の廃炉という、人類史上類を見ない困難な事業を成し遂げるためにも、高度な知識と技術を持つ人材の育成は待ったなしの状況です。
この問題を「原発の問題」として遠ざけるのではなく、日本の未来を担う「人づくりの問題」として捉え、社会全体で議論し、解決策を実行していくことが今、強く求められています。
執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大 参考資料:
- 毎日新聞「原発関連のほぼ全社、10年以内に『技能の継承困難』 人材不足で」(2025/6/24)
- 内閣府 原子力委員会「令和5年版 原子力白書」
- 経済産業省 資源エネルギー庁「エネルギー基本計画」
【メタディスクリプション案】
【専門家解説】原子力白書で「10年以内に技能継承困難」と9割以上の企業が回答。この人材不足は日本のエネルギー安全保障と脱炭素を揺るがす危機です。SDGsの視点から原因と解決策をわかりやすく解説します。
【OGP文案】
衝撃の事実。日本の原発の9割以上が10年以内に技術を失う危機に。エネルギーの未来は大丈夫か?原子力白書が示す人材不足の深刻な実態と、SDGs視点での解決策を専門家が徹底解説。
【パーマリンク】
https://example.com/sdgs-blog/genshiryoku-jinzai-busoku-kiki-2025
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