「サステナブル=売れる」は本当か?2025年消費者トレンドから読み解く、賢い消費者の本音とSDGs時代の企業戦略

消費者は価格や品質に加え、環境への配慮も吟味する時代に

脱炭素とSDGsの知恵袋の編集長、日野広大です。当メディアは、政府の「ジャパンSDGsアワード」で表彰された知見を活かし、国内外のSDGs・脱炭素に関する最新情報を厳選し、その本質を解説しています。

「サステナブルな商品は、そうでない商品よりも売れている」。市場調査会社ユーロモニターインターナショナルの最新調査で、このような興味深いデータが示されました。これは、SDGsを経営の軸に据える企業にとって大きな追い風に見えます。

しかし、同社の別のレポートは、現代の消費者が持つ、より複雑で現実的な側面も明らかにしています。キーワードは「エコ・ロジカル(Eco Logical)」「賢い消費(Wiser Wallets)」

今回はこれらの最新トレンドを紐解き、企業がこれからの時代に本当に「選ばれる」ための戦略を、SDGsの視点から深く掘り下げていきます。

この記事のポイント

  • データで見る「サステナブル市場」の確かな成長
  • キーワードは「エコ・ロジカル」:環境配慮だけでは消費者は動かない
  • 高品質・適正価格が前提となる「賢い消費」の実態
  • 企業が陥りがちな「グリーンウォッシュ」を回避する3つの鉄則
目次

ユーロモニター発表:サステナ商品は非サステナ商品より「成長率が高い」という事実

まず、注目すべき客観的なデータから見ていきましょう。

市場調査大手ユーロモニターが世界25カ国を対象に行った調査によると、サステナブル商品の小売売上高は、2020年から2024年にかけて年平均成長率(CAGR)7.9%を記録しました。これは、非サステナブル商品の成長率を2ポイントも上回る力強い数字です。

日本市場においても、サステナ商品のCAGRは3.7%と、非サステナ商品を1.1ポイント上回っており、世界的な潮流と軌を一にしています。
(出典:ユーロモニター、オルタナ)

この成長を牽引しているのが、化粧品などの「美容・パーソナルケア」分野です。動物実験を行わない「クルエルティフリー」や、自然由来成分をうたう製品への関心が高まっており、消費者が製品の背景にあるストーリーや製造プロセスにまで目を向けていることがわかります。

このデータは、SDGs目標12「つくる責任 つかう責任」をはじめとする持続可能性への取り組みが、もはやCSR(企業の社会的責任)活動の範疇にとどまらず、事業成長に直結する経営戦略であることを明確に示しています。

消費者の本音:「エコ」だけでは買わない「エコ・ロジカル」な価値観

サステナブル市場は確かに成長しています。しかし、だからといって「環境にやさしい」と謳えば何でも売れるほど、現代の消費者は単純ではありません。

ユーロモニターが発表した「2025年 世界の消費者トレンド」は、まさにこの点を鋭く指摘しています。5つのキートレンドの一つ「エコ・ロジカル(Eco Logical)」は、今日の消費者の現実的な姿を浮き彫りにします。

エコ・ロジカルな消費者とは?

商品を購入する際、「地球にやさしい」ことは非常に重要な補完的要素である一方、それのみが購買要因にはならない。
(出典:ユーロモニター『2025年 世界の消費者トレンド』)

つまり、多くの消費者は環境問題を意識してはいるものの、それが購入の絶対条件ではない、ということです。事実、同調査では消費者の40%が「サステナブル商品を購入する一番の障壁は値段である」と回答しています。

「賢い消費」との両立:高品質・高機能が大前提

この傾向を裏付けるのが、もう一つのトレンド「賢い消費(Wiser Wallets)」です。
長引く物価高騰などを経て、消費者の節約志向は定着しました。しかしそれは、単なる安物買いを意味しません。消費者は自らの優先順位に基づき、「本当に価値がある」と判断したものには、たとえ高価でも投資します。

このことは、ジェトロがASEAN3カ国(シンガポール、タイ、ベトナム)で行った消費者座談会の結果からも明らかです。
環境配慮製品の購入経験がある消費者でさえ、購入時の優先項目は「価格・品質・機能性」が上位を占め、「環境への配慮」は必ずしもトッププライオリティではありませんでした。

「日常的に使うものであればあるほど品質を重視する。品質が担保されてはじめてエコであるかどうかという要素が、商品を選ぶときの判断基準になる。」
(シンガポールの消費者、ジェトロ座談会より)

これは、サステナビリティを訴求する上での大原則を示唆しています。企業はまず、製品そのものが持つ品質、機能性、デザイン、そして価格といった基本的な価値で顧客の期待に応えなければなりません。その上で初めて、「環境への配慮」という付加価値が意味を持ち、他社との差別化要因として輝きを放つのです。

アジアでも加速する「脱プラ」と新たな価値基準「クルエルティフリー」

消費者のサステナブル意識が特に顕著に表れているのが「脱プラスチック」の動きです。
ウミガメにストローが刺さった衝撃的な映像などをきっかけに、プラスチックごみ問題への意識は世界的に高まりました。ジェトロの調査でも、ASEANの消費者がエコバッグやマイボトル、詰め替え商品を積極的に利用している様子が報告されています。

さらに、特に美容・パーソナルケア分野では「クルエルティフリー(動物実験を行っていない)」が新たな価値基準として注目されています。これはSDGs目標15「陸の豊かさも守ろう」に含まれる生物多様性の保全にも通じる考え方であり、企業の倫理的な姿勢が問われる領域です。

これらの動きは、消費者が環境や社会に対する影響をより具体的に、自分ごととして捉え始めている証拠と言えるでしょう。

企業に求められる「グリーンウォッシュ」を避けた誠実なコミュニケーション

サステナビリティを訴求する企業が最も警戒すべきなのが「グリーンウォッシュ」、つまり、環境配慮を装い、実態が伴わないにもかかわらず偽りのイメージを訴求してしまうことです。

消費者は以前にも増して企業の主張に厳しい目を向けており、根拠の曖昧な「エコ」「環境にやさしい」といった言葉は、かえって不信感につながりかねません。

ユーロモニターの専門家は、信頼を勝ち取るためのポイントとして以下の3つを挙げています。

  1. ブランドの中核事業との整合性: 自社の事業と関連性の高い、本質的なサステナビリティ課題に取り組む。
  2. 実質的な改善点の強調: 具体的なデータや事実に基づき、インパクトのある改善点を訴求する。
  3. 根拠ある情報発信: 主張の裏付けを明確にし、透明性を確保する。

これらは、SDGsを経営に統合する際の基本姿勢そのものです。場当たり的なアピールではなく、自社のパーパス(存在意義)に根差した一貫性のある取り組みと、誠実なコミュニケーションが不可欠です。

まとめ:編集長視点|これからの企業が目指すべき「価値あるサステナビリティ」とは

今回の各種レポートから見えてくるのは、サステナブル消費が理想論のステージを終え、消費者の生活に根差した「現実的(ロジカル)」な選択の段階に入ったということです。

消費者は、環境や社会に配慮した商品を応援したいという気持ちを持ちながらも、同時に自らの家計や生活の質も守りたいと考える、非常に賢明な生活者です。

これからの企業に求められるのは、この二つの要請に同時に応えることです。

  • 第一に、製品やサービスの「本質的価値(品質・機能・価格)」を徹底的に磨き上げること。
  • 第二に、その上で、自社の事業と深く結びついた、具体的で説得力のある「サステナブル価値」を付加すること。

この二つの価値が両輪となって初めて、商品は「賢い消費者」の心を掴み、持続的な成長へとつながっていきます。「サステナブルだから売れる」のではなく、「高品質で、しかもサステナブルだから選ばれる」。この視点の転換こそ、SDGs時代の企業戦略の核心ではないでしょうか。

あなたの会社は、品質や価格という土俵で勝負した上で、さらに「サステナブル」という付加価値を自信を持って語れますか?今一度、自社の製品とコミュニケーションのあり方を見つめ直す好機と言えるでしょう。


執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大 参考資料:


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