こんにちは。「脱炭素とSDGsの知恵袋」編集長の日野広大です。私たちのメディア運営企業FrankPRは、ジャパンSDGsアワードで外務大臣賞をいただくなど、国からもその専門性を評価いただいております。その視点から、今回は欧州で起きた衝撃的なニュース「スペイン大停電」を深掘りします。
「再生可能エネルギーを増やすと停電しやすくなるのでは?」そんな漠然とした不安が、現実味を帯びて議論されています。この出来事は、脱炭素社会を目指す日本にとっても極めて重要な教訓を含んでいます。
- この記事のポイント
- スペインで何が起きたのか?大規模停電の概要
- 本当の課題は「再エネの量」より「電力システムの質」
- 専門用語「慣性力」とは?停電リスクの鍵を分かりやすく解説
- 日本の電力網は大丈夫か?私たちが備えるべきこと
何が起きたのか?スペイン大停電の概要
2025年4月28日、スペインとポルトガル全域で大規模な停電が発生しました。信号が消え、電車は止まり、インターネットも電話も不通になるなど、社会機能は一時的に麻痺。原因はいまだ特定されていませんが、この出来事をきっかけに、スペインのエネルギー政策が大きな岐路に立たされています。
- 背景: スペインは再エネ先進国で、2024年には電力の56%を太陽光や風力、水力で賄っています。政府は2027年以降の「脱原発」も計画しています。
- 論点: 野党からは「再エネに偏重した結果、電力供給が不安定になったのではないか」との批判が噴出。これに対しサンチェス首相は「再エネが原因という証拠はない」と反論し、エネルギー政策の見直しを否定しています。
直接の原因は不明なものの、多くの専門家が指摘しているのは、再エネの比率が高まることで、電力システム全体が抱える構造的な課題が浮き彫りになった可能性です。
専門家が指摘する本当の課題:「慣性力」とは?
この問題を理解する上で鍵となるのが「慣性力(イナーシャ)」という専門用語です。難しく聞こえますが、原理はシンプルです。
電力システムの「慣性力」とは?
電力システム全体の周波数(日本では50Hz/60Hz)を一定に保とうとする力のこと。巨大な発電機(タービン)が物理的に回転している火力発電や原子力発電は、この慣性力が大きいのが特徴です。まるで「高速で回転する巨大なコマが、少々のことでは倒れない」のと同じです。
一方、太陽光パネルや風力発電機(一部を除く)は、インバーターという電子機器を介して電力網に接続されます。これらは物理的な回転体を持たないため、慣性力を生み出しません。
再エネの比率が高まり、慣性力を持つ巨大な発電機が電力網から減っていくと、システム全体の周波数を安定させる力が弱まります。何らかのトラブルで発電量が急に落ち込んだ際、周波数が大きく乱れ、大規模な停電(ブラックアウト)に繋がるリスクが高まるのです。
今回のスペインの停電は、「天候や需給の変動だけでは考えられない」(記事中の関係者)ほどの急な出力低下が起点だったとされています。仮に直接の原因が再エネでなくとも、慣性力が低下した電力システムが、予期せぬトラブルに対して脆弱になっていた可能性は否定できません。
(提案:ここに「慣性力の有無による周波数安定性の違い」を示す簡単なグラフを挿入。慣性力大=波が小さい、慣性力小=波が大きい、というイメージ図)
日本の電力網は大丈夫か?対岸の火事ではない理由
この問題は、再生可能エネルギーの導入を急ぐ日本にとっても、決して対岸の火事ではありません。
- 系統安定化への投資が必要: 日本でも再エネ導入は国策として進められています。今後、慣性力の低下に対応するため、大規模な蓄電池や、周波数を安定させるための同期調相機といった新たな設備への投資が不可欠になります。
- 先行事例に学ぶ: 2016年、南オーストラリア州でも風力発電の連鎖停止による大停電が発生しました。しかし、同州はこれを教訓に、米テスラ社製の当時世界最大級の蓄電池システムを導入。現在では電力系統の安定化に大きく貢献しています。失敗を乗り越え、より強靭なシステムを構築した好例です。
- コスト負担の議論: こうした安定化策には莫大なコストがかかります。その費用を誰が負担するのか(発電事業者か、送電網の管理者か、あるいは電気料金として消費者か)という国民的な議論が、今後日本でも本格化するでしょう。
私たちFrankPRは、これは「再エネか、原発か」という二元論で語るべき問題ではないと考えます。火力、原子力、水力、太陽光、風力、そして蓄電池といった多様なリソースを最適に組み合わせ、AIなどを活用して電力システム全体を賢く制御する「エネルギー・システム・インテグレーション」という発想こそが、SDGs目標7「安価で信頼できるクリーンエネルギー」の達成に不可欠です。
私たちができること:エネルギーの未来と日々の備え
このニュースは、エネルギーの安定供給が当たり前ではないことを私たちに突きつけます。
- 企業・組織として:
- BCP(事業継続計画)の見直し: 停電リスクを再評価し、非常用電源やバックアップ体制を強化する。
- 自家消費型太陽光+蓄電池の導入: エネルギーコストの削減と同時に、災害時のレジリエンス(強靭性)向上に繋がります。
- 個人として:
- 日々の備えの再確認: 記事にもあるように、災害が少ない国でも非常事態は起こりえます。電池式のラジオやモバイルバッテリー、備蓄食料などを改めて確認しましょう。
- エネルギー政策への関心: 私たちが使う電気の未来がどうあるべきか。安定供給のコストをどう社会で分担していくか。こうした議論に関心を持ち、自分の意見を持つことが重要です。
まとめ
スペインの大規模停電は、再生可能エネルギーの導入拡大という世界的な潮流の中で、「安定供給」というエネルギーの原点を改めて問い直す出来事でした。
直接の原因が何であれ、再エネ比率の高まりが電力システムに新たな課題をもたらすことは事実です。この課題から目を背けるのではなく、オーストラリアの事例のように、テクノロジーと適切な投資によって乗り越え、より強靭でクリーンなエネルギーシステムを構築していく必要があります。
日本のエネルギーの未来を考える上で、今回の停電は非常に示唆に富んだケーススタディと言えるでしょう。
執筆:脱炭素とSDGsの知恵袋 編集長 日野広大
参考資料: 日本経済新聞、電力広域的運営推進機関(OCCTO)資料
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