「牛のゲップ」が地球温暖化の大きな原因の一つであることをご存じでしょうか?そして、そのゲップを減らすための「アメ」が、途上国の貧困問題解決にも貢献する新しいビジネスになっているとしたら、驚かれるかもしれません。
2025年6月5日に報じられたオーストラリアのスタートアップ企業「アグコーテック」のラオスでの取り組みは、まさにそんな未来を感じさせる事例です。この記事では、このユニークな挑戦を深掘りし、その背景にある「メタンガス」や「カーボンクレジット」といった重要なキーワードを、SDGsの視点から分かりやすく解説します。
なぜ「牛のゲップ」が問題になるのか?
まず、基本から見ていきましょう。牛をはじめとする家畜のゲップには、強力な温室効果ガスである「メタンガス」が含まれています。
【用語解説:メタンガス】
メタン(CH4)は、二酸化炭素(CO2)に次いで地球温暖化への影響が大きいとされる温室効果ガスです。その温室効果は、CO2の25倍以上とも言われています。世界の温室効果ガス総排出量のうち、畜産分野が占める割合は1割強にものぼり、その多くが牛のゲップやおならに由来するメタンガスです。
記事によると、牛は1日に500〜600リットルものメタンを排出するとのこと。世界中で飼育されている牛の数を考えれば、その総量は無視できないレベルです。気候変動対策を考える上で、この畜産由来のメタンガスをいかに削減するかが、世界的な課題となっています。
解決策は「特別なアメ」:アグコーテック社の挑戦
この課題に対し、アグコーテック社は「リックブロック」と呼ばれる、牛がアメのようになめる固形の栄養補助食品を開発しました。
- 仕組み: 岩塩やレモングラスなどに独自の成分を配合。これを牛がなめることで胃の中の細菌のバランスが変わり、メタンの発生を抑制します。
- 効果: 記事によれば、このブロック1個で、牛1頭あたりの温室効果ガスを最大40%も削減できるといいます。
これは、テクノロジーを用いて環境問題の根本原因にアプローチする、非常に画期的な解決策です。しかし、この話の本当の面白さは、そのユニークなビジネスモデルにあります。
このビジネスの「核心」:カーボンクレジットとは?
アグコーテック社は、この高性能なリックブロックをラオスの農家に無償で配布しています。なぜそんなことが可能なのでしょうか?その答えが「カーボンクレジット」です。
【用語解説:カーボンクレジット】
カーボンクレジットとは、「温室効果ガスの削減・吸収量」を取引可能な価値(クレジット)として証明したものです。
- 企業や団体が、植林、再生可能エネルギーの導入、あるいは今回のリックブロックのようにメタンガスを削減するプロジェクトを実施します。
- その活動によって「どれだけ温室効果ガスを削減できたか」を、専門の機関が審査・認証します。
- 認証された削減量が「クレジット」として発行され、市場で売買できるようになります。
- 他の企業(特に自社での排出削減が難しい企業など)が、このクレジットを購入することで、自社の温室効果ガス排出量を相殺(オフセット)したと見なすことができます。
アグコーテック社のビジネスモデルに当てはめてみましょう。
- 価値の創出: ラオスの農家の牛にリックブロックを提供し、メタンガスの排出を削減します。
- 収益化: この「メタンガス削減量」をカーボンクレジットとして認証してもらい、英国の製薬企業など、環境貢献に関心のある海外企業に販売します(記事では1トンあたり30〜50ドル)。
- 持続可能なサイクル: クレジット販売で得た収益で、さらに多くのリックブロックを生産し、農家に無料で配布することができます。
この仕組みにより、「環境への貢献」という目に見えない価値が、ビジネスとして成立するのです。
SDGsへの貢献:気候変動対策だけじゃない!
この取り組みは、単なる環境ビジネスではありません。SDGs(持続可能な開発目標)の複数の目標達成に貢献する、優れたモデルと言えます。
- 目標13:気候変動に具体的な対策を
- メタンガスという強力な温室効果ガスを直接削減しており、最も分かりやすい貢献です。
- 目標1:貧困をなくそう
- ラオスは東南アジアの最貧国の一つです。リックブロックは栄養補助食品でもあるため、牛の健康状態が改善し、農家の生産性向上や収入増につながります。無料で提供されるため、農家の負担はありません。
- 目標12:つくる責任 つかう責任
- より環境負荷の少ない持続可能な畜産の実現に貢献しています。
- 目標17:パートナーシップで目標を達成しよう
- オーストラリアの企業、ラオスの農家、英国の企業、そして政府の支援事業が連携することで、大きな課題解決に取り組む好事例です。
特に、経済的に発展が遅れている地域が、その環境や特性(ラオスの牛はメタン排出が多い)を逆手にとってビジネスチャンスに変えている点は、他の途上国にとっても大きな希望となる開発モデルです。
私たちがこのニュースからできること
このラオスの事例は、遠い国の話ではありません。私たちの生活や選択にも繋がっています。
- カーボンクレジットに関心を持つ: 企業の環境活動報告書(CSRレポートなど)を見る際に、「カーボンクレジット」という言葉を探してみましょう。どのような活動でクレジットを生み出し、あるいは購入しているのかを知ることは、企業の環境に対する本気度を測る一つの指標になります。
- 選択を変える: 私たちが商品やサービスを選ぶ際に、少しだけ環境への影響を考えてみることが大切です。環境負荷の少ない製品を選ぶ、環境問題に真剣に取り組む企業を応援するなど、小さな選択が社会を変える力になります。
- イノベーションに期待し、応援する: アグコーテック社のように、常識にとらわれないアイデアとテクノロジーで社会課題を解決しようとする企業は世界中に存在します。こうした新しい動きに関心を持ち、情報を追いかけることも、持続可能な未来への貢献です。
アグコーテック社の挑戦は、環境問題の解決とビジネスの成長、そして途上国支援が、見事に両立できることを示しています。牛のゲップを減らすアメが、地球の未来を少しだけ明るく照らしているのかもしれません。
情報ソース:https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGS04ARR0U5A600C2000000/
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