MaaSとは?移動が変わる仕組み | メリット・デメリットとSDGs/脱炭素への貢献を解説

MaaSとは?移動が変わる仕組み | メリット・デメリットとSDGs/脱炭素への貢献を解説

MaaSとは?移動が変わる仕組み | メリット・デメリットとSDGs/脱炭素への貢献を解説

「MaaS(マース)」という言葉を聞いたことがありますか? スマートフォンアプリ一つで、電車、バス、タクシー、シェアサイクルなど、様々な交通手段を組み合わせて、最適なルート検索から予約、決済までを可能にする。そんな未来の移動の形として注目されているのがMaaSです。

この記事では、SDGsや新しいテクノロジーに関心のある方に向けて、MaaSの基本的な概念から、そのメリットや課題、そして私たちの社会や地球環境、特にSDGsや脱炭素化にどのように貢献するのかを、具体例を交えながら分かりやすく解説します。

目次

MaaSとは? – 移動を「所有」から「利用」へ

MaaS(Mobility as a Service:マース)とは、地域住民や旅行者一人ひとりの移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスです。バス、電車、タクシー、カーシェア、シェアサイクルなど、様々な交通手段(モビリティ)を、まるで一つのサービスのように利用できることを目指します。
(出典:国土交通省の定義などを参考に要約)

簡単に言えば、「移動(モビリティ)をサービスとして利用する」という考え方です。

これまでは、移動する際には個別の交通手段(電車なら鉄道会社、バスならバス会社、タクシーならタクシー会社)ごとに情報を調べて、予約や支払いを行う必要がありました。自家用車を持つことも「移動手段の所有」の一つの形です。

MaaSは、これらのバラバラだった交通サービスをICT(情報通信技術)を活用して統合し、利用者の利便性を飛躍的に高めようとするものです。まるで、音楽や動画を月額料金で楽しむサブスクリプションサービスのように、移動も必要に応じてサービスとしてスマートに利用するイメージです。

MaaSのレベル:統合の度合いを示す指標

MaaSは、そのサービスの統合レベルに応じて、一般的にレベル0からレベル4までの5段階に分類されます。レベルが上がるほど、より高度なサービスの統合が実現されていることを示します。

  • レベル0:統合なし
    • 各交通サービスが独立して提供されている状態。利用者は個別に情報を検索し、予約・決済を行う必要があります。現在の多くの状況がこれにあたります。
  • レベル1:情報の統合
    • 複数の交通手段の情報(時刻表、料金、ルートなど)が、一つのプラットフォーム(アプリなど)でまとめて提供される状態。乗り換え案内アプリなどがこれに近いですが、予約や決済は個別に行う必要があります。
  • レベル2:予約・決済の統合
    • 情報の統合に加え、予約と決済も一つのプラットフォームで完結できる状態。利用者は複数の交通手段をまとめて予約し、一括で支払うことができます。
  • レベル3:サービス提供の統合
    • 予約・決済の統合に加え、月額料金プランやパッケージ商品などが提供される状態。例えば、「月額〇〇円で、電車・バス乗り放題+カーシェア〇時間利用可能」といった、サブスクリプション型のサービスが提供されます。利用者は個別の交通手段を意識せず、「移動サービス」として利用できます。
  • レベル4:政策連携・都市計画との統合
    • MaaSが交通政策や都市計画と完全に連携し、社会全体の最適化を目指す状態。交通需要の予測に基づいて価格を変動させたり(ダイナミックプライシング)、都市開発と連携して新しい交通サービスを導入したりするなど、持続可能な都市交通システムの一部として機能します。

現在、世界の多くの地域でレベル2やレベル3の実現に向けた取り組みが進められています。

MaaSがもたらすメリット

MaaSの普及は、利用者、交通事業者、そして社会全体に様々なメリットをもたらすと考えられています。

利用者のメリット

  • 利便性の向上:一つのアプリで最適なルート検索、予約、決済が完結し、移動がスムーズになる。
  • 選択肢の拡大:電車やバスだけでなく、タクシー、シェアサイクル、オンデマンド交通など、多様な選択肢から最適な組み合わせを選べる。
  • コスト削減の可能性:定額プランなどを利用することで、個別に支払うよりも安くなる場合がある。自家用車を手放すことによる維持費削減も期待できる。
  • ストレス軽減:乗り換えの検索や切符の購入といった手間が減り、移動に伴うストレスが軽減される。

交通事業者のメリット

  • 新たな顧客獲得:アプリを通じて、これまで利用していなかった層にアプローチできる。
  • データ活用によるサービス改善:利用者の移動データを分析し、需要に応じたダイヤ編成やサービス改善に繋げられる。
  • 連携による効率化:他の交通事業者と連携することで、シームレスな移動体験を提供し、地域全体の交通ネットワークの価値を高められる。

社会・環境へのメリット

  • 交通渋滞の緩和:公共交通やシェアリングサービスの利用が促進され、自家用車の利用が減ることで、都市部の交通渋滞緩和が期待される。
  • 環境負荷の低減(脱炭素への貢献):自家用車から公共交通やより環境負荷の低い移動手段へのシフトが進むことで、$CO_2$排出量の削減に繋がる。
  • 地域活性化:観光客の周遊促進や、交通が不便な地域(地方部、過疎地域など)での移動手段確保に繋がり、地域経済の活性化に貢献する。
  • インクルーシブな社会:高齢者や障がいを持つ人など、移動に制約のある人々にとっても利用しやすい移動手段を提供できる可能性がある。

MaaSの課題とデメリット

多くの可能性を秘めたMaaSですが、普及に向けてはいくつかの課題も存在します。

  • データ連携の壁:複数の交通事業者が持つ運行情報や予約・決済システムなどを連携させる必要があるが、事業者間の競争意識やシステムの違い、データ形式の標準化などが障壁となることがある。
  • 収益モデルの確立:MaaSプラットフォームを提供する事業者や、参加する交通事業者が持続的に利益を確保できるビジネスモデルの構築が課題。特に、運賃収入が減少する可能性のある既存の交通事業者との調整が必要。
  • 地域格差:都市部では多様な交通手段が存在しMaaSを導入しやすい一方、地方部では交通手段が限られ、導入効果が出にくい場合がある。
  • 法整備:新しいサービス形態に対応するための法制度の見直しや整備が必要になる場合がある(例:運賃制度、旅客運送事業に関する規制など)。
  • デジタルデバイド:スマートフォンやアプリの利用に慣れていない高齢者などが、サービスから取り残される懸念がある。誰もが利用しやすいユニバーサルデザインへの配慮が必要。
  • 個人情報の取り扱い:利用者の移動データを扱うため、プライバシー保護やセキュリティ対策が極めて重要。

MaaSとSDGs・脱炭素の関係

MaaSは、持続可能な開発目標(SDGs)の達成や脱炭素社会の実現にも貢献するポテンシャルを持っています。

  • SDGs目標11:住み続けられるまちづくりを
    • 公共交通の利用促進や交通渋滞の緩和を通じて、安全で持続可能な都市交通システムへのアクセスを提供する(ターゲット11.2)。
    • 地方部での移動手段確保により、都市部への人口集中を緩和し、包摂的で持続可能な都市化を促進する(ターゲット11.3, 11.a)。
  • SDGs目標13:気候変動に具体的な対策を
    • 自家用車から公共交通やシェアリングサービスへの利用転換を促し、$CO_2$排出量を削減することで、気候変動とその影響の軽減に貢献する。
    • 効率的なルート提案や交通需要のマネジメントにより、無駄なエネルギー消費を抑制する。
  • その他の関連目標
    • 目標3(すべての人に健康と福祉を):高齢者などの移動支援。
    • 目標8(働きがいも経済成長も):新たな産業・雇用の創出。
    • 目標9(産業と技術革新の基盤をつくろう):ICTを活用したインフラ整備。

MaaSは、単なる交通の利便性向上だけでなく、環境負荷の低減と経済・社会活動の活性化を両立させるための重要なツールとなり得ます。

国内外のMaaS事例紹介

世界や日本国内で、様々なMaaSの取り組みが進んでいます。

海外事例:Whim(フィンランド・ヘルシンキ)

  • MaaSの先進事例として最も有名なサービスの一つ。
  • MaaS Global社が提供し、公共交通(バス、トラム、電車、フェリー)、タクシー、レンタカー、シェアサイクルなどを組み合わせた複数の月額プランを提供(レベル3)。
  • 利用者は、自分に合ったプランを選ぶことで、多様な交通手段をシームレスに利用できる。

日本の事例

日本でも国土交通省などが中心となり、各地でMaaSの実証実験やサービス導入が進められています。

  • My route (トヨタ自動車など):福岡市、横浜市、富山市などで展開。公共交通、タクシー、シェアサイクル、レンタカー、駐車場などの検索・予約・決済に加え、地域の店舗やイベント情報も提供。
  • Ringo Pass (JR東日本):都内のタクシー、シェアサイクル、バスなどの検索・予約・決済が可能。Suicaとの連携も特徴。
  • Izuko (伊豆急行など):伊豆エリアの観光型MaaS。電車、バスのフリーパス、タクシー配車、観光施設の電子チケットなどを統合。
  • その他:各地域で、自治体や交通事業者が連携し、地域特性に合わせた独自のMaaS(オンデマンド交通の導入、観光周遊促進など)が展開されている。

日本のMaaSは、地域交通の維持・活性化や観光振興といった課題解決を目的としたものが多いのが特徴です。

日本のMaaSの現状と今後の展望

日本では、人口減少や高齢化が進む地方部での公共交通維持、都市部での交通渋滞、環境負荷の低減、観光振興など、多くの社会課題を抱えています。MaaSはこれらの課題解決に貢献する手段として期待され、国も「日本版MaaS」の推進を後押ししています。

今後は、以下のような点が重要になると考えられます。

  • 事業者間のデータ連携強化標準化の推進。
  • 利用者のニーズに応える多様なサービスの開発収益モデルの確立
  • 都市部だけでなく地方部への展開と、地域の実情に合わせたサービスの設計。
  • 自動運転技術との連携による、将来的なドライバー不足解消や新しい移動サービスの創出。
  • 法制度の整備規制緩和によるイノベーションの促進。
  • 誰もが使いやすいユニバーサルデザインの追求。

MaaSが広く普及し、レベル4のような社会システムとして統合されるまでには時間がかかるかもしれませんが、着実に進化を続けています。

まとめ:MaaSで描く持続可能な移動の未来

MaaSは、私たちの移動をより便利で快適にするだけでなく、交通渋滞の緩和、環境負荷の低減、地域活性化など、多くの社会課題の解決に貢献する可能性を秘めた重要なコンセプトです。

特に、公共交通やシェアリングサービスの利用を促進することで、$CO_2$排出量を削減し、脱炭素社会の実現やSDGsの目標達成に向けた有効なアプローチとなります。

課題はまだ残されていますが、技術の進歩や社会のニーズの高まりとともに、MaaSは今後さらに発展していくでしょう。私たちがMaaSに関心を持ち、新しい移動サービスを積極的に試していくことが、よりスマートで持続可能な交通社会の実現に繋がります。

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